コラム

真偽を宙づりにするNHKの謝罪

2022年01月24日(月)17時20分

写真はイメージです batuhan toker-iStock.

<「字幕問題」が浮上したNHK・BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』。問題は多岐にわたるが、なかでも「不確かな内容」というNHKの謝罪は、デモ参加者に一方的に着せた汚名をそそぐに足る言葉と言えるか>

昨年末に放送されたNHK・BS1スペシャル『河瀬直美が見つめた東京五輪』で、一人の匿名男性の登場シーンに「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という2つの字幕が付けられた。

映像では男性自身はその字幕の内容を語っていなかったが、1月9日になり、NHKがこれらの字幕に「不確かな内容」があったとして謝罪した。

この男性がお金をもらっていたか否かどころか、五輪反対デモに参加していたかどうかについてすら確認できていなかったという。

東京五輪の公式記録映画の監督である河瀬氏や、チームの一員で当該男性の取材にも携わった映画監督の島田角栄氏らを追ったこの番組。問題は多岐にわたるが、なかでもNHKの謝罪における「不確か」という言い回しが気になった。

「間違った」と異なり、真偽を宙づりにするだけ。デモの参加者に対し番組が一方的に着せた汚名をそそぐに足る言葉だろうか。

デモなどを呼び掛けてきた「反五輪の会」は、「私たちが金銭によって参加者を動員するということは一切ありません」と抗議している。

河瀬氏や島田氏のコメントはNHKと異なる形容をしている。

まず河瀬氏は「『お金を受けとって五輪反対デモに参加する予定がある』という話が出たことはありません」「公式映画チームが取材をした事実と異なる内容が含まれていた」。続いて島田氏は「『五輪のデモに参加した』という主旨の発言は無かった」「公式映画チームとして取材した内容と異なるテロップが流れてしまった」としている。

いずれも「不確か」ではなく、自分たちが「取材した事実や内容と異なる」という説明だ。なお大手紙の表現も「不確かな字幕」「取材内容と異なる字幕」「確認が不十分な内容」と分かれている。

実際に番組を見てみると、東京五輪の「光と影」や「光と闇」という言い回しが河瀬氏や島田氏から度々出てくることに気付く。

島田氏が河瀬氏に対して「プロパガンダ的なドキュメンタリー映画」になることの懸念を伝える箇所もある。そして、競技の撮影に忙殺される河瀬氏に代わって、島田氏が五輪開催期間中の「影」の部分を映していたという役割分担の事実も明かされる。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

中国自動車販売、6月は前年比+18.6% 一部EV

ワールド

ガザ停戦は可能、合意には時間かかる=イスラエル高官

ワールド

アングル:中国人民銀、関税懸念のなか通貨安定に注力
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story