コラム

梅村みずほ議員のウィシュマさんをめぐる「悪質な責任転嫁」と過去の発言との同型性

2023年05月21日(日)07時40分
国会

kanzilyou-iStock.

<入管、政府の責任が問われている彼女の死に対し、根拠のない「詐病」をほのめかした問題発言。被害者や弱者の側に「悪意」「嘘」を見いだすのは、ありふれたやり口でもある>

「善かれと思った支援者の一言が、皮肉にも、ウィシュマさんに、病気になれば仮釈放してもらえるという淡い期待を抱かせ、医師から詐病の可能性を指摘される状況へつながった恐れも否定できません」

政府が提出した入管法改正案についての国会審議で、日本維新の会の梅村みずほ参議院議員はこう発言した。

まず発言自体の問題を指摘しておく。梅村氏は、適切な医療へのアクセスを絶たれ、名古屋入管の収容施設で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんが「詐病を企てた可能性」をほのめかしたと言える。

つまり、入管、政府の責任が問われている彼女の死に対し、むしろ亡くなった本人、あるいは支援者に責任があるのではと示唆しているわけだ。根拠もなく、極めて悪質な責任転嫁である。

梅村氏はこの国会質問の原稿を準備する上で、「自らを死に至らしめるほどの詐病」などというものがあり得ると本当に考えたのだろうか。ほんの少しも疑問を抱かなかったのだろうか。元も子もないとはまさにこのことだ。

その日、参議院の傍聴席にはウィシュマさんの遺族や支援者もいたという。何重にも冒瀆的な発言だと言わざるを得ない。

また、梅村氏が用いた「仮釈放」という言葉についても念のため言及しておく。ウィシュマさんのように、在留資格がなく入管施設に収容された外国人に対してなされるのは「仮放免」であり、刑事施設の受刑者に対して許可される仮釈放ではない。

それにもかかわらず、あえて「仮釈放」を用いるのは、ウィシュマさんやほかの被収容者があたかも受刑者であるかのような誤解を呼び込み、不適切だ。あるいは、こうした基本的な違いすら理解せぬまま、あれほど攻撃的かつ誤りに満ちた発言を堂々としたのだろうか。

私が今回の梅村氏の発言を知り想起したのは、氏がたびたび「虚偽DV」という言葉を用いながら、「本当はDVなどなかったのに、DVがあったと嘘をつく人がいる」という問題を提起してきた人物であることだ。

3月の法務委員会でも、齋藤健法務大臣に「虚偽のDVを訴えるケースがあるのは把握していらっしゃいますでしょうか」と質問している。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story