コラム

中国への怒りを煽るトランプの再選戦略の危うさ

2020年05月20日(水)17時20分

自分の再選のためには世界をぶち壊しかねないトランプ REUTERS/Carlos Barria

<米国内の感染爆発は、中国ではなく欧州から来たものである可能性が高い。にもかかわらず、中国をスケープゴートに仕立て上げ、ファーウェイ潰しにかかるトランプは世界に更なる災いと混乱しかもたらさない>

アメリカの新型コロナウイルスへの感染者数が150万人を超え、死者数も9万人を突破するなかでトランプ政権が中国に対する攻撃を強めている。トランプ大統領がツイッターで「中国ウイルス」と連呼すれば、ポンペイオ国務長官は5月初めに新型コロナウイルスが武漢の研究所から流出した「大量の証拠」がある、といってのけた。もっとも、ポンペイオ氏はその後5月16日にブライトバート・ニュースに出演した時は「武漢から始まったことはわかっているが、どこから、また誰から伝染したかはわからない」と、だいぶ立場を後退させたが。

それでも、ポンペイオ氏は「このような過ちには大きな代償を伴うことを中国共産党に思い知らせてやらなければならない」と強調し、トランプ政権がなんらかの制裁を行う可能性を匂わせた。トランプ大統領は5月14日に放映されたフォックスビジネスのテレビインタビューで「中国の関係を断ち切ることだってできるんだ。で、何が起きる? 5000億ドル節約できるだけのことさ」と豪語した。大統領の頭の中にはどうやら経済的な制裁、たとえばさらなる関税の引き上げや輸入禁止といったことがあるようだ。

「最初にうつされた人間が悪い」

ポンペイオ氏はいう。「最初の患者がどこにいて、どのように感染したかを知らなければならない。」彼の言い分に従えば、諸悪の根源は最初に動物からウイルスをうつされた人間だということになる。

だが、日本の国立感染症研究所による新型コロナウイルスのゲノム解析によれば、アメリカ東海岸で猛威をふるっているウイルスはヨーロッパで広まっているものと近接性が強いようである(国立感染症研究所「新型コロナウイルスSARS-CoV-2 のゲノム分⼦疫学調査2020/4/16 現在」)。アメリカが中国からの入国を制限し始めたのは1月31日で、それから1カ月経った3月1日時点でのアメリカ全土の感染確認数はわずかに30人。この頃にはすでに中国での感染は終息しかけていたので、アメリカは中国からの感染伝播をほぼ完全に阻止することに成功したのである。

アメリカで感染が急速に広まるのは3月半ばからで、その頃はちょうどイタリアなどヨーロッパで感染爆発が起きていた。そうしたタイミングから見てもアメリカに広まったウイルスはヨーロッパから伝わってきたものだとみてよいように思われる。つまり、アメリカで感染が広まった理由はヨーロッパからの伝播を防げなかったことにある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買

ビジネス

中国外貨準備、4月は予想以上に減少 金保有は増加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 7

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story