コラム

極端で不正確だが、米国の一面を「確かに表す」トランプの言葉...その人気が示す超大国の「暗い現実」

2024年03月09日(土)18時44分
ドナルド・トランプ前大統領

Evan El-Amin/Shutterstock

<バイデンとトランプが演説で語った、180度異なる「アメリカ」の姿。大統領選の後、実現するのはどちらのアメリカなのか>

[ロンドン発]「トランプとバイデンは2つの演説で米国について全く異なる見解を示した」(3月8日付米紙ニューヨーク・タイムズ)「バイデンとトランプ、2つの演説で語られた2つの米国像」(3月8日付米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)

11月の米大統領選で再び対決する現職ジョー・バイデン大統領の一般教書演説とドナルド・トランプ前大統領によるスーパーチューズデーの勝利演説は米国について180度異なるビジョンを描いてみせた。世論調査で優位に立つトランプ氏はディストピアの米国を語る。

「この3年間、この国が大きな打撃を受けるのを見てきた。私が大統領に再選していればロシアがウクライナを攻撃することはなかった。イスラエルが攻撃されることもなかった。イランは一文無しだった。(イスラム過激派の)ハマスやヒズボラのための資金もなかった」

「インフレも起きていなかったはずだ。インフレは中産階級を破壊する。国を滅ぼす。多くの人が、多くの専門家が株式市場だけがうまくいっていると言っている。バイデンはわが国史上最悪の大統領だ。32万5000人の移民が米国内の空港に秘密裏に運ばれてきた」

トランプ「米国は死にかけている」

「米国は分裂している。国境で、選挙で第三世界の国に成り下がった。それを阻止しなければならない。国境を閉鎖し、悪党を国外追放する。都市は窒息死しつつあり、州や合衆国は死にかけている。だからこそ、われわれはこの国をかつてないほど偉大な国にする決意だ」

自らの大統領時代の減税と規制緩和の成果を自慢するトランプ氏のレトリックは極端で、正確ではない。しかし、米国の一面を切り取っているのは確かだ。スーパーチューズデーでは共和党内の対立候補ニッキー・ヘイリー元国連大使に対し14勝1敗という圧倒的強さを見せた。

不動産市場の崩壊に喘ぐ中国に比べ、米国経済はバイデン氏のバラマキが悪化させた債務膨張や格差問題を除けば死角がない。世界最大の国内総生産(GDP)とエネルギー産出量、基軸通貨ドル、断トツの軍事力、人工知能(AI)や創薬に象徴される技術革新力、西側市場の大きさ。

インフレと利上げにかかわらず米国経済は強さを保ち、ノーランディング(成長継続)の声さえ上がる。米国株価指数は「マグニフィセント・セブン」(ハイテク超大型7銘柄)に牽引され、史上最高値を更新する。しかし無資産の低所得・貧困層はその恩恵には永遠にあずかれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英国でのIPO計画が増加、規則改正控え=ロンドン証

ビジネス

円安で基調物価上振れ続けば正常化ペース「速まる」=

ワールド

ロシア、ウクライナのエネルギー施設に大規模攻撃 停

ビジネス

韓国現代自、米EV工場でハイブリッド車も生産へ=幹
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story