コラム

子供たちが殺されている前でお金の話をしないで...日本企業へ、ウクライナ人の思い

2022年06月11日(土)16時03分

日系企業やドラッチさんの勤める三菱自動車ウクライナが何もしていないというわけではない。しかしドラッチさんの目にはとても自分事として受け止めているようには見えないのだ。

今回、筆者は、車イスの前輪を浮かせて人力車のように引っ張る着脱式の補助具「JINRIKI QUICK(ジンリキ・クイック)」のキャラバンに参加した経験からウクライナ人の行動力と組織力を称賛した。するとドラッチさんは「何かが頭の上に落ちて来たなら、誰でも非常に迅速に行動するはずです。そして私たちは今、祖国を(自分の一部として)感じているのです」と答えた。

「どの国も有能ですが、すべては動機にかかっています。ポーランドやイギリス、アメリカはウクライナを強く支持してくれています。彼らはウクライナが話していることを理解しています。ドイツやその他の国は問題を理解していないフリをしています。彼らは以前の正常な世界に戻ることを期待しています。しかし普通の世界に戻ることはないのです」

仏大統領「ロシアに恥をかかせてはならない」

ポーランドやバルト三国は、次は自分たちがロシアのウラジーミル・プーチン大統領のターゲットになることを理解している。一方、ドイツやフランスは塀の上で様子見を続けている。「ハンガリーはロシアに非常に協力的です。お金の話は戦争がない時にするもので、眼の前で子供たちが殺されている時に塀の上に座ってお金の話をすることは許されないはずです」

アンゲラ・メルケル前独首相は引退後初のインタビューで、ロシアとのエスカレーションを防ぐために「私は十分に努力した。成功しなかったことは大きな悲しみだ」と自己弁護した。エマニュエル・マクロン仏大統領は「ロシアに恥をかかせてはならない。そうすれば戦闘が終わった時に外交ルートを通じて問題を解決することができる」と述べ、批判を浴びた。

「あなたはある国が他国の人々を殺すことを認めるのですか。大きな国が小さな国を殺すことを黙って受け入れるのですか。世界が前世紀に戻ることを認めるのか、それとも認めないのか。境界線を示すべきです。多くのロシアの軍用機には日本やフランスなど西側製のパーツが使われているのです」

西側企業は「平和の配当」を隠れ蓑に、軍民両用技術だけでなく、軍事の専門技術をロシアに輸出して利益を上げてきた。ドラッチさんはこの戦争で、自分たちの価値観を犠牲にしてまでロシアとのビジネスを継続することはできないと強調する。「今どちらの側に着くか、態度を決める必要があります」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用コスト、第1四半期1.2%上昇 予想上回る

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

米マクドナルド、四半期利益が2年ぶり予想割れ 不買

ビジネス

米CB消費者信頼感、4月は97.0に低下 約1年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story