コラム

英保守党大会、不幸な大失態演じたメイ首相とほくそ笑むジョンソン外相

2017年10月05日(木)15時30分

メイはEUとの離脱交渉について「イギリスと欧州の利益になる合意を私たちは見つけ出せると確信している」と強がってみせた。しかし、これは「ホワイトホール(官庁街)が非常事態計画を策定中だ」というデービッド・デービスEU離脱担当相の見解と相当、食い違っている。

メイのフラストレーションはジョンソンによる「メイ下ろし」の画策、ハモンドやデービスとの確執でピークに達していたのだろう。それを象徴するかのような演説だった。

消えていないジョンソンの野心

党大会のミニ集会に顔を出して離脱交渉を担当する下院議員らの話を聞く限り、メイ政権は当初のハードブレグジット(EU単一市場と関税同盟からも離脱)から、より現実的なソフトブレグジット(単一市場や関税同盟へのアクセスを可能な限り残す)に舵を切っている。

これを気に入らないハードブレグジットの怨念が保守党には渦巻いている。ほとんど進んでいない離脱交渉にデービスは見るからに疲れている。ハードブレグジット派の中心にいるのが、昨年6月の国民投票でEU離脱を主導したジョンソンだ。

ボサボサの金髪、外相になってからも問題発言を繰り返し、今回の党大会でも「もし(内戦後も混乱する)リビア政府が(治安を回復して)死体を片付けることができたらドバイのように繁栄するだろう」と言って党内から解任要求を突き付けられた。

仮面の下に隠された強烈なエゴ、知性、悪魔的カリスマと行動力。英紙タイムズの見習い時代、退屈な記事を面白くするため談話をでっち上げて解雇されたこともある。

EU離脱決定後の党首選で突然、出馬を取りやめ、イギリス中を唖然とさせたジョンソンの野心は消えていない。

kimura20171005110604.jpg
党大会の演説で吠えたジョンソン外相(筆者撮影)

ジョンソンは党大会の演説で「今、私たち次第なのだ。伝統的なイギリスの流儀で内なるライオンに吠えさせる時だ」と党員を鼓舞した。2022年に予定される次の総選挙は、勢いのなくなったメイで戦わないことは疑う余地はない。

労働党のコービン人気をひっくり返して「P45」を突き付けられるのはこの男、ボリス・ジョンソンしかいない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story