コラム

世界経済はついに「転換点」? スタグフレーションと「株価の長期低迷」の時代へ

2022年05月25日(水)10時50分
ニューヨーク証券取引所

SPENCER PLATT/GETTY IMAGES

<グローバル化に逆行するような最近の動きは「時代の変化」の前兆か。長期の低成長とインフレの時代が訪れる可能性は十分ある>

世界的なインフレ懸念を受けて、各国の株式市場が足踏みしている。理論上、物価が上がると、その分だけ株価も上昇するはずだが、インフレによる業績への悪影響も大きく、特に成長期待の高かった銘柄には下落圧力が加わる。

最大の関心事は、このインフレが短期で収束するのか、長期にわたって継続するのかである。1970年代に約10年間にわたって続いたスタグフレーション(不景気下のインフレ)の再来となった場合、株式市場が長期低迷する可能性も否定できない。

年初に3万6000ドルを超えていたダウ平均株価は、大きく値を下げており、記事執筆時点で3万2000ドル台の取引となっている。特にインフレ懸念が激しくなった3月以降の下落幅が大きい。日本株も、年初からの値動きは基本的に下落基調となっている。

アメリカ経済は物価は上がっていたものの、賃金も同じペースで上昇していたことから、インフレの悪影響はそれほど懸念されていなかった。だが、今年に入って賃金と物価の乖離が激しくなっており、市場はインフレ警戒モードに入った。

物価対策から大幅に金利が引き上げられた場合、景気にマイナスに作用することに加え、市場に出回ったマネーが縮小するので、株式市場にとっては強烈な逆風となる。特に成長期待によって株価が上昇していた銘柄への影響は大きく、ネット株は現時点でも総崩れに近い状況だ。

問題はインフレ懸念が一時的なものかどうか

ここまでの話は、多くの投資家にとって予想できる事態であり、ネット株の下落も大きな驚きではない。仮にインフレ懸念が一時的なものであれば、いずれ市場には資金が戻り、株価も再び上昇を開始するだろう。だが、今回のインフレが悪性だった場合、話は変わってくる。

70年代のアメリカは、約10年で物価が2.5倍に上昇するという長期インフレに見舞われていたが、成長も鈍化したことから、株価は長期にわたって低迷した。当時のインフレは原油価格の引き上げ(オイルショック)がきっかけとされているが、金とドルとの兌換停止(いわゆるニクソンショック)によるドルの大量流出というマネー的要因も絡んでいる。

今回のインフレも、量的緩和策というマネーを大量にばらまく政策があり、ここに原油価格の上昇が加わったという点で、当時との類似性が指摘される。もしそうだとすると、今回のインフレは前回と同様、簡単には収束しないことになり、株式市場が大きな転換点を迎えている可能性について検討せざるを得ない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story