コラム

イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?

2025年07月12日(土)15時20分
英鉄道エリザベスライン

瞬く間に主要路線になった英鉄道エリザベスライン HENRY NICHOLLS-REUTERS

<東京で時刻通りの電車運行と完璧な運転士に感動してから30年...イギリスのひどい鉄道を日本人に運営してもらいたいと思った僕の願いがついにかなった!>

僕は約30年前のあの瞬間をとても鮮明に覚えている。東京に住んでいた当時、僕を乗せた東急の電車がちょうど五反田駅に着いたところで、これまでに台風や弱い地震や熱波は数あれど、時間どおりに電車が到着してくれたのはこれで連続157回目、という時だった。

この特別な瞬間に僕の目に留まったのは、ピシッと制服を着た運転士が電車を降り、くるりと車両に向き直り、1、2、3カ所を指差し確認し、全てが正常、とうなずいてから、おそらくシフト交代を終えて去っていく姿だ。


彼が何を確認していたのかは僕には分からないが、この儀式の正確さの何かが、僕に深い感銘を与えた。「ワオ、イギリスのお粗末な列車を日本人が走らせてくれたらいいのに!」と思ったが、悔やみながらもそんな幻想は消し去った。あり得ない、と。

イギリスに帰国し、粗悪なとんでもなく高い列車に十数年耐えてきた後ではあるが、僕の願いがついにかなった。東京メトロがパートナー企業数社と共に、イギリス鉄道網の「至宝」の1つである路線「エリザベスライン」の運営に携わる7年間(最長9年)の契約を結んだのだ。

個人的にはエリザベスラインは、ロンドン-マンチェスター間の路線よりも重要だと言いたいくらいだが、僕が南部住民だから少々バイアスがかかっているかもしれない。

エリザベスラインは2022年に完成したばかりだが、既に乗客数はイギリスの全旅客の約6分の1相当を誇る。累計5億人、今後も増え続ける一方だ。高速鉄道HS2計画がかなり縮小され、永遠に大失敗事業とみられそうなのが確実な今、エリザベスラインはおそらく世紀のインフラプロジェクトとして記憶されるだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送中国サービスPMI、8月は53.0 15カ月ぶ

ワールド

豪GDP、第2四半期は約2年ぶり高い伸び 消費支出

ワールド

タイ与党、下院解散を要請 最大野党がライバル首相候

ビジネス

政府と連絡とりつつ為替市場の動向モニターしていきた
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story