コラム

「コロナ後」ロンドンで(細かすぎる)再発見

2022年04月27日(水)17時50分

5年の歳月をかけて、ビッグ・ベンの改修はほぼ終了した。足場は外され、ピカピカになって――見慣れたものとは違う配色になっている。いくぶん白っぽくて光沢感が増している。片側についた時計はちょうど12時を指しており、僕は一瞬混乱した。

ここ数週間で観光客が再びロンドンになだれ込むようになってきたから、改修が済んだのはグッドタイミングだ。まるでパンデミックはすっかり終了したか、あるいは人々が終了したかのように振る舞っているように見える。

知ったかぶって言うと、ビッグ・ベンという名称は実際には、有名な塔の内部にある鐘のことを指す。塔そのものは、2012年にエリザベス女王のダイヤモンド・ジュビリー(在位60年)を祝してエリザベス・タワーと再命名された。それ以前は「セント・スティーブンス・タワー」だったのだが、そう呼ぶ人はほぼいなかった。ビッグ・ベンとしてあまりに有名だったから、他の呼び方をするのはばかげていたのだ。

そんなわけでビッグ・ベンは、観光客が写真を撮りたがるイギリスのランドマークだ。そしてベストスポットの1つは、傍らに立つ昔ながらの赤い電話ボックスの横から撮ること。公衆電話は明白な理由によってイギリス中から姿を消しつつあるが、ここには隣り合わせで2つが残っている(建築家ギルバート・スコットの古典的デザインだ)。観光客たちは、ビッグ・ベンを背景にしてこの電話ボックスの横に立つ。これ以上にイギリスらしい風景があるだろうか?

いや、さらに「よりイギリス的」なのは、観光客グループがこの電話ボックスの順番待ちで整然と列を作っている様子だ。もちろん、電話をするためではなくて写真を撮るため。イギリス人はきちんと行列を作る名人だとはよく言われていて、「外国人」はこの文明をそれほど極めていない、と僕たちは考えがちだ。きっと彼らはぐちゃぐちゃに押し合いへし合いして写真を取り合うものだとばかり思っていた。ところが、そのイギリスのランドマークと写真スポットの前には、完璧で、礼儀正しく、辛抱強い、「イギリス的」な列ができていた。おかげで僕はなんだか幸せな気分を味わえた。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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