コラム

コロナ規制撤廃で完全に羽目を外すイギリス

2022年04月13日(水)19時10分
ノーマスクで観戦するプレミアリーグの観客

英プレミアリーグのアーセナル対クリスタル・パレス戦でマスクをせずに密集するサポーター(4日、ロンドン) Andrew Boyers-REUTERS

<ロシアのウクライナ侵攻でパンデミックのニュースは吹き飛び、イングランドではコロナの規制が全て撤廃。感染者数が過去最大を記録するなか、人々は慎重に生活を取り戻すどころか、密で無防備でノーマスク>

一般的にはその仕組みを理解しているはずのジャーナリストであるにもかかわらず、僕は時々、メディアの注目がいかに簡単に移り変わってしまうかに驚かされる。まずそれで思い出すのが日本にいた1995年のことで、神戸の阪神大震災の報道が、東京の地下鉄サリン事件のニュースで一気にかき消された(僕は神戸で学生をしていたことがあったから、なんだか不当に扱われているように感じた)。そして今、絶え間なく続いていたパンデミックのニュースが、ウクライナに切り替わっている。優柔不断と思われるのを承知で言えば、両方を報じる余地がないことを、僕は理解してもいるし不思議に思ってもいる。

そういう考えで、僕は今回、新型コロナウイルスについて書くことにする。なぜコロナのことを考えているかというと、まず1つには、イングランドが4月1日から全てのコロナ規制を撤廃したことがあり、2つ目には、そんな中で現在イギリスでは過去最大の感染者数を記録しているためでもあり、3つ目には、僕がいま滞在しているロンドンで、丸々過去1年間で目にしたよりも多くの人の波にこの3日間でさらされたからでもある。

イギリスの人々は信じ難いほどきっぱりと、パンデミックが終息したかのように振る舞っている。まるで規制の終了が、ウイルスの消滅、あるいはウイルスはもう危険ではない、という発表であるかのように受け止められているかのようだ。英政府はそんなことは一切言っていないが、人々は微妙な差異を理解できていないように見える。つまり、「ウィズ・コロナ」へ移行しつつあるということをだ。

僕自身は、この移行に賛成している。新型コロナウイルスが消えてなくなることはないということがはっきりしているなか、際限なくいつまでもこんな規制下で生活していくのは不可能だ。ワクチン接種はかなり行き渡り、入院率も低くなっている。死亡率は低く、あらゆる原因の死亡率全体の中ではほとんど認識できない程度だから、コロナウイルスが「超過死亡」の急上昇を引き起こしているわけでもない。

ソーシャルディスタンスなど皆無

僕が懸念しているのは、人々がもうちょっと注意深く行動できるはずなのにしていないことだ。まだ脅威は残っている。僕には、(2度のワクチン接種後に)コロナに感染した同い年の友人もいる。今は疲労感が抜けず頭に靄がかかったような状態に苦しんでおり、コロナの後遺症だと感じているようだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ビジネス

テスラの中国製EV販売、11月は前年比9.9%増 

ワールド

イスラエル首相「シリアと合意可能」、緩衝地帯設置に

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story