コラム

ジャーナリズムは時に盛大に間違える

2021年11月29日(月)14時30分

だが残念なことに、これらは当時の記事の現物を取っておけば良かったがそうしていなかっただけに、「覚えているかぎりでは」という感じで話すしかない。僕は経験から、長い年月で何度も思い返し何度も語る間に、記憶がいかにいい加減になるか、と言うこともよく分かっている。だから僕や友人たちは話を「盛って」いる可能性がある。

でも、こちらは現物ありだ。僕は昨日たまたま、使っていないスーツケースの中から2017年のタイムズ紙の記事を見つけ、ばかげた誤報記事のかなりの好例に出会った。その1面は、2017年にこれから行われる英総選挙で「メイ首相が地滑り的勝利を収める見込み」と報じていた。結局、その1カ月後、テリーザ・メイ率いる保守党は多くの議席を失い、安定多数を失い、もう少しで労働党に政権を奪われそうな状態になり、この時からメイが党首(首相)の座を明け渡すのはもはや時間の問題になった。

公平を期すために言えば、他の新聞も当時、同じような予想をしていた。だがタイムズ紙の人気論説員はさらに踏み込み、地滑り的勝利しかあり得ないだろう、と示唆していた(「この予測には反論の余地がない。その数は驚くべきものになるだろう」)。実際のところ彼は、保守党の優位があまりに大きくなって、あまりに多くの議員と支持者が得られるせいで、価値観や身分のさまざまに異なる人々が保守党に集結し、保守党内で分断が起こる可能性がある、とまで予想していた。

これは僕が読んだことのある記事の中で最もひどい誤報というわけではないが、僕が切り抜いて取っておいた記事の中では最もひどい誤報だった。今後も取っておいて、僕自身が間違いをやらかしてしまったときにこれを読んで自分を慰めることにしようと思う。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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