コラム

あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げに語る英国人

2024年05月11日(土)19時42分
ロンドンのクラレンスハウス(英王室邸宅)のハンプティ・ダンプティ

マザーグースの有名な「ハンプティ・ダンプティ」はイングランド内戦に由来するって本当?(ロンドンの英王室邸宅外壁に飾られたハンプティ・ダンプティ人形) KIERAN DOHERTY-REUTERS

<超有名な童謡の基になった事件や、独特の言葉が誕生した経緯など、イングランドの人が吹聴する話に疑問を感じても、反論しないであげて>

ちょっとしたニュースだが、僕の住む市(イングランド南東部エセックスのコルチェスター)の目抜き通りに新たな像がお目見えした。童謡「Twinkle Twinkle Little Star(きらきらぼし)」の詩を書いたジェーン・テイラーと、その妹アンの像だ。

テイラー姉妹はわが市コルチェスターに暮らし、ジェーンは夜空の星を見上げている時にあの詩を思いついたと言われている。ちょうどこの像のすぐ近くにあった、屋根裏部屋の窓から。

newsweekjp_20240511102027.jpg

コルチェスターにお目見えした「きらきら星」作者のテイラー姉妹の像 COLIN JOYCE

これは小さなわが市の小さな「自慢話」だが、コルチェスター発の「もう1つの」童謡「ハンプティ・ダンプティ」について話題に出す人もいた。この一見ナンセンスな「マザーグース」の詩は実のところ、地元の歴史的事件に基づいていると広く信じられている。

コルチェスターはかつて、イングランド内戦(清教徒革命、1642~1651年)の戦場だったことがある(第2次イングランド内戦の1648年)。直前に成立した共和制政府に反旗を翻し、王党派が街を占拠したのだ。

オリバー・クロムウェルの軍は郊外の丘の上から街を爆撃し、城や、現在僕が住む家の近くにある修道院などの要塞を標的にした。王党派は彼らよりも低地に陣取っており、大砲の射程距離が十分でなかったので、反撃することができなかった。

いつしか子供向けの卵の姿に

伝えられるところによれば、王党派は持っている中で最大の大砲、通称ハンプティ・ダンプティを城壁の上に設置し、そこから共和派を攻撃できるのではないかとの計画を思いついたという。

だが、バランスがうまくいかなかった。大砲は城壁から倒れてひびが入り、修理は不可能に。こうして全てのつじつまが合う――ハンプティ・ダンプティ、壁の上/ハンプティ・ダンプティ、大転落/王様の馬と王様の家来がみんなでかかっても/ハンプティを元に戻せなかった――。

そしてある時点から、子供たちを楽しませるために、ハンプティは大砲ではなくある種の神話的な卵の姿をした生き物として描かれるようになりだした。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエル・イラン停戦支持 核合意再交渉

ワールド

マスク氏、トランプ氏の歳出法案を再度非難 「新政党

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで約4年ぶり安値、米財政

ワールド

米特使「ロシアは時間稼ぎせず停戦を」、3国間協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 8
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 9
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story