コラム

コロナ支援策の恩恵はなぜか富裕層に

2021年03月31日(水)16時00分

コロナ禍とロックダウンは弱者に大打撃を与えたが Hannah Mckay-REUTERS

<コロナとロックダウンの経済的打撃を緩和し、市場崩壊を防ぐために導入されたイギリスの支援策の数々は、ことごとく富裕層の懐を潤わせる結果に>

新型コロナウイルスとそれに伴うロックダウン(都市封鎖)はイギリスに経済的大打撃を与えた。堅調なはずのビジネスが破綻した。コロナ以前から「どうにかやりくりしていた」多くの人々は打ちのめされている。最も貯金が少ない25歳以下の若年層は、失業リスクも高い。経済が縮小し、税収が減少するなか、英政府は巨額を借り入れている。

1年越し以上になるこのコロナ危機の不都合な真実は、以前から裕福な数百万人の人々、特にイギリスの最富裕地域で暮らす人々にとってはタナボタになっているということだ。僕自身はこのカテゴリーに入る。カテゴリー内の最下層に位置してはいるが。

まずは穏当な理由から。ロックダウンの間、映画や買い物、レストランやパブや休暇に以前ほどお金を費やせなくなったという明白な理由のせいで、人々の支出は減っている。時がたつにつれ、もともと娯楽に費やす余裕があった人ほど預金が増えた。

困惑するのは、イギリスの自宅待機の政策がいかに高所得者に有利になっているかということだ。この制度では、ロックダウンによって働けない場合、月2500ポンドを上限に通常の所得の80%を支援してもらえる。明らかに、その日暮らしの人々にとって20%の収入減は大惨事だ。でも持ち家ありの中流層の多くにとっては、まずまずの給料をもらえる「ガーデニング休暇」のようなものだろう。

通常なら僕のようにフリーランスや自営業者は、収入ダウンや収入中断に政府支援はなく、自力で対処しなければならない。その代わり、会社員より税額は低い。でもコロナ禍では、フリーランスはフリーランスならではの自宅待機をすることになった。それには奇妙な側面もあった。フリーランスは平常時の80%の額をフルに請求するか、全くしないかのどちらかだったのだ。支援を受けられる基準は、仕事がロックダウンで悪影響を受けているかどうか。だから、多くの人が10~20%程度の収入減でもその3~4倍の保障を政府から受け取った。

一応言っておくと、この寛大な措置にきまり悪さを覚えて当たり前に受け取っていいものかと葛藤したのは僕だけではないようだ。結局、今後の状況がどの程度悪化するか見えないときに、もらえるはずのお金を辞退しようとはなかなか思えないものだ。

高級住宅に住み替えるチャンス

「WFH(ワーク・フロム・ホーム=在宅勤務)」は多くの人にとって家計の助けになった。イギリスの電車運賃は高い。僕はロンドン通勤圏の最遠端地域の1つに住んでいる。ここから通勤すると年間定期券は5552ポンドに上り、手取り収入から支払うことになる。だから、平均的な会社員は1月と2月、定期代のためだけに働いている計算になる。ロックダウンが始まってから、未使用分の定期代は公金で払い戻しされた。これは僕の近隣住民、特に共働き夫婦にとってはかなりの臨時収入になったようだ。

従来、長距離通勤は一長一短あるものだった。高額な電車賃と長い時間をかける代わりに、都心よりずっと大きな家に住むことができからだ。それがWFHでは、デメリットがなくなったうえに広々とした家はかつてないほど必要となった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ミーム株急騰、火付け役が3年ぶり投稿再開 ゲームス

ビジネス

米国株式市場=S&P横ばい、インフレ指標や企業決算

ワールド

メリンダ・ゲイツ氏、慈善団体共同議長退任へ 名称「

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story