コラム

税制論議をゆがめる安倍政権の「拝外」主義

2016年03月25日(金)17時00分

 資料をご覧いただいてお気づきの通り、実はお二人とも「消費税」と明言した記述はありません。増税反対のお二方も、賛成とされたジョルゲンソン教授もあくまでも会合内、あるいは会合後の記者会見の場でそれぞれ発言した内容として伝えられたものに過ぎません。

 なぜ、自身の資料に明確に記載をしないのか。以前の寄稿でも触れました通り、一国の税制は国家の主権と深く関わっています。したがって、国外から税制の指摘をすれば、これは過剰な内政干渉と見なされるのがいわば国際通念。国際人である各教授がこうした通念を意識するのは容易に想像できます。あくまでも個人の主張との位置づけではあっても、日本政府からの招致である以上、内政干渉となりうる税制問題に賛成・反対といった記載を資料の中ではっきりと残すことを避けた、というのは当然の判断と言えましょう。

 ちなみに、増税判断は5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)でなされるといった報道がありますが、これもおかしな話です。内政干渉の問題がある以上、日本の消費税が国際会議の議題に上るはずもないのですが、仮にサミットで議題になり、消費税見送りへとの意見が多数を占めることになったとしましょう。これは消費税増税に賛成・反対以前の問題として、日本国の主権の侵害ですから日本政府は各国の過剰な内政干渉に対して毅然とNOを突き付ける必要があるのです。こうした指摘は消費税増税派にとっては喜ばしいはずで、なぜ岩本がわざわざ敵に塩を送るようなことを書くのか?と反対派からは思われるかもしれませんが、ここはフェアに。

「G7で増税に反対してくれるのだから良いではないか」、というお声が聞こえてきそうですが、それとこれとは全く次元の違う話。というのも、これを良しとしてしまえば、逆に各国から消費税増税せよと言われれば日本は消費税を上げるのですか?という問題が出てきます。国際会議でも国内政策でもその場凌ぎの「いいとこ取り」だけをする訳には参りません。

 サミットで消費税増税延期の話が出たなら、それが本当に議題の俎上に乗ったのか、そうではなく、G7後の会合の記者会見の場で、個人的見解としての発信なのかを見極める必要があります。伊勢志摩サミットはあくまでも国際的な経済、政治的課題について討議する会議であり、(サミットでの国際情勢報告が増税か否かをその後に判断するきっかけにはなっても)一国の税制を判断する場ではありません。日本で開催されるサミットで関連ニュースも多くなるはずです、一次情報については目を皿のようにしてフォローするようにいたしたいと思っています。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 8
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story