コラム

アメリカの「国境調整税」導入見送りから日本が学ぶこと

2017年08月04日(金)17時00分

アメリカには付加価値税・消費税がないため国内企業が不利益を被っているという議論があった Jorge Duenes-REUTERS

<アメリカ企業が不利益を被っているという理由からトランプ政権で導入が検討されてきた「国境調整税」だが、実質的な消費税としての機能が公平な税制への、そして国内消費減退を招くという懸念から今回の導入は見送られた>

大統領選挙期間中から提案され、トランプ政権発足直後からもめにもめてきた税制改革、中でも下院共和党案として出された国境調整税(Border Adjustment Tax, 通称BAT)の扱いが米国内ではこれまでかなり紛糾してきました。以前の寄稿で、このBATがあっさり立案、可決されると決め打ちするのは危ういと指摘いたしましたが、予想通り7月27日(現地時間)に導入却下が決定的となりました。

背景として、トランプ大統領、ムニューチン財務長官を筆頭にトランプ政権自体がBATに反対していたことはもちろんですが、この約半年間、米小売業界を中心に、実体経済目線のFACT(事実)を基にしたBAT反対の真摯なロビー活動が行われたことも大きかったと言えるでしょう。

この間の議論の推移を日本の主要メディアさんが少しでも伝えてくれれば......加計や森友問題、政治家のスキャンダル報道に費やす時間の百分の1、いや千分の1でも割いてくれれば日本の消費税議論にも深みが増すのにと思っていたのですが、やはり完全無視となりました。残念なことです。

BAT見送りが大々的に発表されたホワイトハウスの共同声明で注視するのは下記の部分でしょう。

「新しい国内消費に基づく税制に移行することなしで、アメリカの雇用と課税ベースを保護しながらアメリカ企業、外国企業、労働者との間の公平を確保する実行可能な方法があると我々は今、自信を持っている。これまで国境調整による成長押し上げ効果について討議してきたが、国境調整には多くの未知数が存在することがわかり、税制改革を進展させるためにもこの税制導入を棚上げする決定に至った。」

【参考記事】迷走するオバマケア代替法案のあまりに不都合な真実

消費税肯定派には耳の痛い部分かとは思いますが、公平さを維持するためには国内消費に基づく税制は必要ないと米国はこの度、あらためて表明したことになります。同盟国の決定については消費税増税派・反対派を問わず、10%へ消費税増税が規定路線となっている現在だからこそ日本の税制が根本的にどうあるべきなのか、あらためて立ち止まって考えるきっかけとすべきなのではないでしょうか。
 
BATとは何か。税制の専門的なことを言い出すとキリがありませんが、極めて端的に言うと日本の消費税と同じ機能をもたせる税制です。具体的には法人税の課税対象から、輸入に課税・輸出に免税するものです。

消費税は国内消費にかかわる税制であるはずなのに、輸出入といったい何の関係があるのか?と思われるかもしれませんが、日本の消費税(海外ではこのタイプの税制は付加価値税と呼ばれるのが一般的)にも関税(=国境で調整される税)の機能が存在し、輸入品には課税、輸出品には還付(=米公文書は還付とは言わず「リベート」としています)措置があります。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン資産運用部門が議決権行使助言会社利用打

ワールド

ベネズエラ、原油売却益で米国製品購入へ=トランプ氏

ワールド

米、ベネズエラ原油取引・収入の管理必要 影響力確保

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米労働関連指標を見極め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 5
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 6
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 7
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 8
    公開されたエプスタイン疑惑の写真に「元大統領」が…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story