コラム

税制論議をゆがめる安倍政権の「拝外」主義

2016年03月25日(金)17時00分

安倍首相は今月、アメリカの著名経済学者3人を招致して意見聴取した(写真はクルーグマン米プリンストン大学教授) Franck Robichon-REUTERS

 ちょうど国際金融経済会合のためスティグリッツ教授が来日したので、国内報道はそちらがメインになるかと思いきや、あにはからんや。経済分野でのコメントも活発になさっていた方の経歴詐称の話題で持ち切りだったようで。スピン・コントロールとは思いませんが、結果的には海外の名前や海外の「権威」を安易に受け入れたり、心酔したりすることに水を差す展開へと感じたのはワタクシだけでしょうか。
 
 ざっとではありますが主要各紙を確認しました。総じて、スティグリッツ教授の発言の都合の良いところを「つまみ食い」した印象は否めません。また、続くジョルゲンソン教授、クルーグマン教授の主張についても国内報道では正確に伝わっていないのではないか?との疑念が払拭できずにいます。

 財政出動要請の他にも、金融政策の有効性(マイナス金利も含む)の否定、量的緩和政策による不公平の拡大(通貨切り下げ策=円安効果への疑問)、賃金体系の見直し、社会保障の充実、格差是正、日本の成長戦略への伝統的アプローチである個別産業への補助金政策の否定(現状の政権がすすめる地方創生も補助金ありきですから、その否定になりますね)、TPPに関しては自由貿易協定とは名ばかりであるがゆえに反対あり、農協の影響力の弱体化・農業改革・岩盤規制撤廃のススメと絡んで賛成あり。実に示唆に富んだ多岐に渡る指摘が各教授からあり、こうした海外の「権威」の主張を聞かない理由はありません(聞いた上でどう判断するかが我々の問題)。官邸HPにご用意下さった実際の資料が紹介されていますので、是非皆さまご一読をおススメいたします。

 なおクルーグマン教授の資料はなしとのこと。であるなら、会合の音声データのアップや文字起こしぐらいは掲載してくださってもよいものなのに。会合のメンバーだけでなく国民全体にとっても貴重な御意見ですし、招致の資金も元を辿れば我々の血税。オープンにしていただいて然るべきかと思います。ところで、報道発表を官邸に都合の良い内容だけと糾弾する皆さんもスティグリッツ氏のコメントの抽出だけに終始しているようですが、ジョルゲンソン教授の指摘もクロースアップして見るべきではないでしょうか。それこそ都合の良い話になってしまいます。

 取り上げたいテーマはいくつもありますが、取り敢えず消費税を。ご承知の通り、ワタクシは消費税増税に反対どころか、内需主導の日本経済にとってあまりに悪影響がすぎる消費税制度そのものに反対。かねてから消費税は増税ではなく減税→廃止へと訴えてきたものですから、消費税増税に反対を示されたスティグリッツ、クルーグマン両教授からのフォローの風は官邸ならずとも大歓迎!!と言いたいところではありますが......手放しに喜ぶわけにはいかない点についてもフェアに指摘して参りましょう。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story