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ロシア作家連合が前線で「文学の降下作戦」を展開──ウクライナ戦争下の「Z作家」と詩人たち
彼は、ロシア軍事歴史協会会長も務めている。プーチン大統領は、首席歴史家として、2023年に彼に高校3年生向けの「愛国的な」歴史教科書再編の任務を委ねた。ちなみに、彼は1970年にソ連の構成国であるウクライナ共和国、キーウの南に位置するチェルカースィ州に生まれ、80年代にモスクワに引っ越すまでウクライナで育った経歴をもつ。
メディンスキーの演説や教科書は、「ロシア国家が守護者である」と主張する歴史的「真実」を展開しており、イデオロギー史家と批判される。
この「首席歴史家」は、どれほどの学者なのだろうか。
ロシアの歴史家たちは彼を提訴した。2011年に書かれた彼の論文「中世ロシア」が誤りだらけで、方法論に欠け、イデオロギー的な一般化に依拠していると主張し、学位の取り消しを求めたのだ。しかし、その請求は却下された。
一方、ヨーロッパの歴史家の集団は今年5月、「ウクライナのための歴史家たち」を立ち上げ、ロシアが第二次大戦の記憶を改ざんし、最も残虐な行為を正当化していると非難。署名活動を行い、欧州のメディアに訴えている(現在438名が署名)。ロシアの新しい法律では、赤軍や退役軍人を批判することは犯罪であり、ソ連の犯罪を暴露する書籍は禁止され、ミュージアムや機関は閉鎖されているという。「平和、民主主義、自由の回復といった価値観を守るために団結し、破壊的な紛争を再び起こしてはならない」と、歴史家たちは主張する。
これは自由と「ヨーロッパ」を賭けた闘いなのだ。
詩人を殺すもの
さらにメディンスキーは、文化界を愛国心に奉仕させ、自由主義的とみなされた作家や演出家を迫害してきている。
アルティオム・カマルディンという33歳の詩人は2023年12月、7年の懲役刑を受けた。「憎しみの扇動」と「国家の安全を脅かす活動」という罪状だと、英紙ガーディアンは報じている。
彼はモスクワ中心部の広場にある、ソ連時代から政治的・詩的な集いの場と知られる詩人ウラジーミル・マヤコフスキー(1893-1930)の像の前で、「私を殺せ、民兵よ」という怒りに満ちた詩を朗読した。
プーチン大統領の背後にいるシロビキと呼ばれる治安機関を非難し、「あなた方の大統領は、あなた方をとても喜ぶだろう。私をバラバラに引き裂け!」と詠みあげた。また、ウクライナ南部を併合しようとする帝国主義的な「新ロシア」プロジェクトに対して、攻撃的なスローガンを叫んで逮捕された。
「私は自由なロシアで生まれました。この国はもう存在しません。ロシアと名乗る怪物によって破壊され、食い尽くされたのです」
詩人は拘禁中に、警官たちからバーベルで強姦されたと主張している。
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