コラム

ロシア作家連合が前線で「文学の降下作戦」を展開──ウクライナ戦争下の「Z作家」と詩人たち

2025年07月07日(月)13時25分

68歳のアレクサンドル・コラビヨフも、ドストエフスキーに言及している。大統領文化イニシアチブ財団の支援を受けている彼は「私達の英雄展」の特別ゲストだった。これは今年5月に開催された、大祖国戦争80周年と対ナチス戦勝を祝う愛国的な大ブックフェアだ(この報告は『Le Monde des Livres』に詳しい)。

人生の大半を、現在ロシアの支配下にあるウクライナの都市ドネツクとホルリウカで過ごしている人物である。ドネツクでロシア語と文学の教師を務め、ドネツク大学で教授となり、学者として数々の研究成果がある。

「もしロシアとウクライナの双方がロシアの古典、特にドストエフスキーの予言を再読する時間を持っていたのなら、双方の戦争は起こらなかっただろう」

「ドネツクは世界戦争の震源地だ。ファシズム対キリスト教、西側対ロシアである」


キーウ政権を打倒し、新たな偉大な勝利をおさめるためには、祖国への献身が必要だと彼は語っている。

彼によれば、すべての革命は行き詰まりに終わるという。「ウクライナはロシアと一つの民族をなしているが、変化を約束する他の道に導かれた......幻想だ」と嘆く。そしてロシア帝国主義の熱心な支持者であるドストエフスキーが発した予言は、今日、現実のものとなっている。つまりロシア体制が「ロシア世界」と呼ぶ「自然な影響圏」に属する例えばウクライナのような国の自由な選択は、攻撃(侵略)として受け止められる──というのだ。

ただ、ロシア文学者で名古屋外国語大学学長の亀山郁夫によれば、確かにドストエフスキー最晩年の世界観は、「ロシア人の特徴は、全世界の民族と共鳴できる能力であり、ロシア人であることは全人であること、あらゆる人間であること」というロシア中心主義的な考え方だったが、ウクライナ人も含めたスラブ諸民族の平和と自由を目指すものだったという。

歴史の真実と自由をめぐる闘い

現在、「ロシア作家連合」の会長を務めるのは、ウラジーミル・メディンスキーである。

今年5月中旬、トルコにおけるウクライナとロシアの和平交渉で、プーチン大統領の代わりにロシア代表として交渉に臨んだ人物だ。元文化大臣で、現在は大統領補佐官である。メディアや文化界を通じてクレムリンのメッセージを伝える中心人物だ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル急上昇、トランプ氏が日韓などへの

ビジネス

EU、米国の関税通知回避の公算 譲歩狙う=関係筋

ワールド

イラン大統領、米国との対話に前向きな姿勢表明 信頼

ワールド

フーシ派、紅海船舶攻撃に犯行声明 ホデイダ沖でも2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    新党「アメリカ党」結成を発表したマスクは、トラン…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story