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ロシア作家連合が前線で「文学の降下作戦」を展開──ウクライナ戦争下の「Z作家」と詩人たち
68歳のアレクサンドル・コラビヨフも、ドストエフスキーに言及している。大統領文化イニシアチブ財団の支援を受けている彼は「私達の英雄展」の特別ゲストだった。これは今年5月に開催された、大祖国戦争80周年と対ナチス戦勝を祝う愛国的な大ブックフェアだ(この報告は『Le Monde des Livres』に詳しい)。
人生の大半を、現在ロシアの支配下にあるウクライナの都市ドネツクとホルリウカで過ごしている人物である。ドネツクでロシア語と文学の教師を務め、ドネツク大学で教授となり、学者として数々の研究成果がある。
「もしロシアとウクライナの双方がロシアの古典、特にドストエフスキーの予言を再読する時間を持っていたのなら、双方の戦争は起こらなかっただろう」
「ドネツクは世界戦争の震源地だ。ファシズム対キリスト教、西側対ロシアである」
キーウ政権を打倒し、新たな偉大な勝利をおさめるためには、祖国への献身が必要だと彼は語っている。
彼によれば、すべての革命は行き詰まりに終わるという。「ウクライナはロシアと一つの民族をなしているが、変化を約束する他の道に導かれた......幻想だ」と嘆く。そしてロシア帝国主義の熱心な支持者であるドストエフスキーが発した予言は、今日、現実のものとなっている。つまりロシア体制が「ロシア世界」と呼ぶ「自然な影響圏」に属する例えばウクライナのような国の自由な選択は、攻撃(侵略)として受け止められる──というのだ。
ただ、ロシア文学者で名古屋外国語大学学長の亀山郁夫によれば、確かにドストエフスキー最晩年の世界観は、「ロシア人の特徴は、全世界の民族と共鳴できる能力であり、ロシア人であることは全人であること、あらゆる人間であること」というロシア中心主義的な考え方だったが、ウクライナ人も含めたスラブ諸民族の平和と自由を目指すものだったという。
歴史の真実と自由をめぐる闘い
現在、「ロシア作家連合」の会長を務めるのは、ウラジーミル・メディンスキーである。
今年5月中旬、トルコにおけるウクライナとロシアの和平交渉で、プーチン大統領の代わりにロシア代表として交渉に臨んだ人物だ。元文化大臣で、現在は大統領補佐官である。メディアや文化界を通じてクレムリンのメッセージを伝える中心人物だ。
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