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ロシア作家連合が前線で「文学の降下作戦」を展開──ウクライナ戦争下の「Z作家」と詩人たち
Z散文の他のスターには、アレクセイ・ショーロホフもいる。元々愛国的な詩人・作家として賞などを受けてきた彼は、2023年1月に志願兵となり、バフムートの7カ月の戦闘で負傷した後、再び書き始めた。
「アルベール・カミュのように私は実存主義者であり、キリスト教のルーツに深く根ざし、信念のために戦う覚悟があり、責任と死について書く決意です」と述べたという。
彼の著書『戦闘の栄光』について「バフムートの戦友たち! 彼らのために私は書きます」「これは戦闘、愛、英雄主義を描いたほぼドキュメンタリー的な本です」と語る。この物語は2つの演劇作品のインスピレーションにもなった。その後、彼は他のZ作家たちと同様にクレムリンの軍事文化装置の一員となり、現在では国防省の雑誌の編集長となっているそうだ。
ケネルは「戦闘の事実は率直に描いているが、そこに留まっている」「これは戦争を美化するためのものだ」と評している。
ドストエフスキーに回帰するZ作家たち
Z作家たちの話を読んでいると、よく言及されるのがフョードル・ドストエフスキー(1821-1881)である。『罪と罰』『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』などの傑作で有名だ。
彼が生きたのは、人身売買制度でもあった過酷なロシアの農奴制が、解放令(1861)によって廃止されるという、過渡期の矛盾と騒乱のただ中の時代だった。20代の時に「空想的社会主義」に関係したとしてシベリアに流刑。その後は帝国主義賛美者となっていった。
Z作家であるドミートリー・フィリポフは、2024年にロシア作家連合が主催する「ことば」コンテストで、注目を浴び、300万ルーブル(約550万円)の賞金を獲得した人物だ。「好きな作家はドストエフスキーだ! 信仰、道徳、理性、ロシア。彼が描いたものはすべて、今日の私たちに語りかけている」という。
彼は3年以上にわたって前線と家を往復している。2年の戦闘の末、ロシアが占領したウクライナ・アウディーイウカの地から『沈黙の収集者』という350ページもの著作を執筆。戦闘に参加した平凡な公務員の精神の変容を描いた、自伝的な作品だという。なかでは「大祖国戦争(第二次大戦)」における、英雄的なレニングラード攻防戦と並行して描かれており、「書くことは、戦争の暴力を吐き出す手助けとなり、さらに戦う力を与えてくれる」とケネルに語る。
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