コラム

「これはフェイク?」親中派が月額30ドルのAI動画生成サービスでデジタル影響工作していた

2023年02月10日(金)17時45分

親中派のデジタル影響工作グループが、月額30ドルのAI動画生成サービスを使って作成したディープフェイクのニュース番組を配信していた...... YouTube-Synthesia

<2022年の年末に親中派のデジタル影響工作グループが、AI動画生成サービスを使って作成したディープフェイクのニュース番組をSNSに投稿していた......>

前回の記事で2023年はAI支援デジタル影響工作ツールが広く使われるようになると書いたが、さっそくそれを裏付けるような事実が暴露された。

2022年の年末に親中派のデジタル影響工作グループSpamouflage(Dragonbridgeと呼ばれることもある)が、月額30ドルのAI動画生成サービスを使って作成したディープフェイクのニュース番組「Wolf News」をフェイスブック、ツイッター、YouTubeに投稿していたのだ。

幸い、再生数はわずかだったが、ブルキナファソでも同じツールを利用したデジタル影響工作と思われる動画が発見されており、利便性の高いAI支援デジタル影響工作ツールの利用が広まっていることを示した。

中国共産党を支持する情報、アメリカを貶める情報を発信

今回、ディープフェイクを拡散しようとしていたSpamouflageは数年前から活動しているグループで、中国共産党を支持する情報やアメリカを貶める情報などを発信するデジタル影響工作を行っている。先月もグーグルが関連するアカウント5万件以上を削除している。

昨年のアメリカ中間選挙では積極的に活動していたことがサイバーセキュリティ企業マンディアント社によって、既存のニュース記事や調査レポートを改竄して、中国に都合のよい内容にして拡散していたことなどが暴かれている。たとえば中国由来のサイバー攻撃APT41をアメリカ由来に置き換えて拡散していた。

>>■■【動画】これは、フェイク? Synthesia社のデモ動画

当初、専門家も俳優と間違え、日本語にも対応

ディープフェイク作成に使用されたサービスは、イギリスのSynthesia社のもので、個人使用なら月額30ドルで利用できる。メールを作成するくらいの手軽さで動画を作成できることができ、一般企業の人材育成や研修用の動画作成に利用されることが多いという。

このサービスは120カ国語(もちろん日本語にも対応)に対応し、性別、年齢、民族、声のトーン、ファッションなどが異なる85以上のアバターが用意されている。テンプレートは55以上もあり、パワーポイントからのインポートもできる。ありものでよければ使用するテキストを用意するだけで動画ができてしまう。スタジオで動かずにニュースを読み上げるだけなら数分でできる。動かないといっても自動的に口は動くし、まばたきもする。

安価で簡単にできる分、画像が粗かったり、口と音声がずれたりなど、不自然なところはあるが、ネットの動画ではありがちなことと気に留めない人も多いだろう。実際、調査に当たったグラフィカ社のチームは当初、人間の俳優を使用した動画と考えていたほどだ。

どのような動画が作れるかは実際に現物を見ていただくのが早いと思う。下記はSynthesia社自身のウェブにある紹介動画だ。

>>■■【動画】これは、フェイク? Synthesia社のデモ動画

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地

ビジネス

米国株から資金流出、過去2週間は22年末以来最大=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story