コラム

誹謗中傷には厳罰化された侮辱罪で対抗せよ

2022年08月26日(金)16時12分

7月から侮辱罪が厳罰化され、誹謗中傷の刑はずっと重くなった(写真はイメージです) gorodenkoff-iStock.

<誹謗中傷は放置せずに裁判を起こし、すべてに勝訴してきた経験を持つ筆者が、侮辱罪の効果から裁判の費用までを解説>

主にインターネット上の誹謗中傷対策を目的として、侮辱罪の法定刑を引き上げ、厳罰化する改正刑法が7月に施行されて早2ヵ月というところである。まずこの法改正の端緒が、プロレスラーであった木村花さんの自死という痛ましい事件だった事実を我々は強く認識しなければならない。尊い無辜の命が失われて初めて、法改正が成ったというのは決して褒められたことではない。木村さんの無念を思うとき、私たちは胸が締め付けられる思いがする。

現在のところまだ施行から日が浅いということもあるが、危惧された公権力による恣意的な濫用──、つまり権力者が自身への批判を侮辱として刑事告発し、刑事事件化することで世論の批判を抑制する、という動きは起こっていない。もちろん今後の動向には注意が必要である。

端的に私は侮辱罪の厳罰化について大賛成である。但しこれはもちろん刑事の領域であり、民事でのそれとは別個の話である。刑事事件とは大まかにいえば、社会秩序を乱した不埒者に対して国家が罰を与える、国家対私人の構図である。これに対して民事事件とは、国家賠償請求訴訟等を除けば私人対私人の構図である。刑事事件と民事事件は原則別物である。

侮辱の被害に遭った場合、被害者には次の選択肢がある。一つ目はこれを警察に告発して刑事事件にしてもらうこと。二つ目は警察と関係なく加害者を相手取り民事訴訟(損害賠償請求)を起こして裁判官に白黒を決めてもらうこと。三つ目は、この刑事事件と民事事件を並行して進めることであるが、基本的には侮辱の被害に遭った場合、改正刑法前は一般的に二つ目の選択肢、つまり民事訴訟提起の一本やりであった。この理由は後述する。

私は「闘う言論人」を自称して、これまで自らを侮辱してきたり名誉を毀損してきたものに対して果敢な民事訴訟を提起し、過去それらの全てで勝利が確定した。「言論には言論で抵抗するべきだ」みたいな言説がある。とりわけ公で言説を展開するものは、ある程度の批判は甘受するべきものだ、みたいな風潮が現在でもあるがこれは嘘である。

他者を侮辱し、誹謗中傷する言説はそもそも「言論」ではないので、「言論には言論で抵抗するべきだ」という定理の前提が成り立っていない。私はかつてネット上で「古谷は知的障碍者である」と書き込み名誉を棄損した者に約440万円の損害賠償を求め、裁判所で被告に対し賠償命令が確定した。被告は不遜にも裁判所で確定した賠償命令を無視したため、私は顧問弁護士を通じて強制執行を実行し、被告の銀行口座から賠償金額+強制執行手数料+遅延損害金を差し押さえた経験を有する。

「古谷は知的障碍者である」というのは言論ではないし意見でもない。こうした侮辱には適切な法的制裁を加えないと社会正義が瓦解する。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米

ビジネス

ECB、利下げごとにデータ蓄積必要 不確実性踏まえ

ビジネス

ソニー、米パラマウントに260億ドルで買収提案 ア

ビジネス

ドル/円、152円台に下落 週初から3%超の円高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story