コラム

揶揄の標的にされた沖縄──ひろゆき氏発言の考察

2022年10月20日(木)12時14分

沖縄・辺野古基地建設に反対するデモ(2021年10月25日) Issei Kato- REUTERS

<問題の本質は、「沖縄に対して揶揄したり茶化したりするのはOK」という風潮である>

元2ちゃんねる管理人の西村博之氏(以下ひろゆき氏)の発言が物議をかもしているのは既知の通りである。詳報『ひろゆき氏に「汚い字」と言われた掲示板 作った住民、母を殺された過去「腹を割って話してみたい」』、『ひろゆきさん「沖縄の人って文法通りしゃべれない」 配信動画の発言、また物議』。

これを受けて「ひろゆき氏はネトウヨ(以下ネット右翼)なのではないか」などの批判が殺到した。まずひろゆき氏はネット右翼ではない。私によるネット右翼の定義は「いわゆる保守系言論人の言説を鵜呑みにし、それをネット上で拡散する彼らのファン層」としている(詳細は、拙著『ネット右翼の終わり』晶文社,を参照のこと)。

この定義に従えばひろゆき氏は彼自身が著名人であり発信者であるので、ネット右翼とは異なっている。しいて言えばネット右翼の「扇動者」というべき存在である(これを"冷笑系"という向きもあるが、詳しくなるので別稿に譲る)。ちなみに一般的に認知されているネット右翼は「ネット上で差別的、歴史修正的な言説を表明する人」などとされるが、ネット右翼が誕生したとされる2002年(日韓W杯を嚆矢とする)から20年を経た現在、彼らは必ずしもネット空間においてのみ存在するのではなく、リアルのイベントや集会等に参加することもふつうになっているので、ネットだけを主戦場にしているわけではない。

今回のひろゆき氏の言動は、揶揄・茶化しであり本当に悪意の前提があったのかは置いておくとしても、彼の発言に好意的な評価を取る人のほとんどはやはりネット右翼と呼ばれる属性の人が多いように観察される。知識が無いのに社会問題に何か物申したい!―という"おっさん"は社会の中に普遍的に存在するから特段奇異なものではない。問題の本質は、「沖縄に対して揶揄したり茶化したりするのはOK」という風潮である。ひろゆき氏に悪意があろうとなかろうと、結果的に彼の発言は沖縄の反基地活動派の揶揄・茶化しと捉えられている。

もしこれが「安倍元総理国葬義への揶揄・茶化し」のニュアンスを含むと解釈されるものだったとしたらどうか。恐らく総スカンを食らうだろう。なにかの番組をやっていたなら降板に繋がりかねない。ところが沖縄の反基地派に対してだとこういった総スカンは起こりづらく、起こったとしても「現在のレギュラー出演番組や都度出演番組の人事」に影響はしない、という判断があったのかもしれない。だとしたらその背景とは何かを探る必要がある。「沖縄への揶揄はOK」「沖縄についてはいくら茶化してもOK」はどこから・いつからうまれたのだろうか。

「南方シフト」するヘイトの指向性...北海道から沖縄へ

2002年の日韓ワールドカップ共催大会を嚆矢として生まれたネット右翼は、前提的に強烈な「嫌韓」を世界観とした。同大会で韓国チームのラフプレーが行われたのに、それを日本のメディアは一切報じない──ということを問題視した。なぜ韓国チームの「不公正な」プレーを報道しないのか。それは大手広告代理店の経営者が韓国にルーツを持つからである、という「事実とは異なった」理由でメディア全体を呪詛した。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、大きな衝撃なければ近く利下げ 物価予想通り

ワールド

プーチン氏がイラン大統領と電話会談、全ての当事者に

ビジネス

英利下げ視野も時期は明言できず=中銀次期副総裁

ビジネス

モルガンS、第1四半期利益が予想上回る 投資銀行業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story