コラム

安倍氏国葬、「献花に2万人超」は本当に「驚くほど多い」のか?

2022年09月29日(木)22時05分

「安倍元首相に弔意を表すため多くの日本国民が長蛇の列を作った」というのは本当か(9月27日、日本武道館) Issei Kato-REUTERS

<世論調査では国民のざっと6割が国葬に反対していたが、葬儀当日は2万5000人もの一般国民が献花に訪れた──政府はこれに誇らしげ、メディアや識者は「驚き」の体だったが、実はまったく大した数ではない>

一般献花に25,889人が訪れる

27日に執り行われた安倍元総理大臣の国葬における一般献花者の数は、28日午前の松野官房長官の会見によると「最終的に25,889人」だったと発表された。27日の速報値では23,000人程度とされたが最終的にはそれよりも約1割強増えた格好である。

これだけ多くの人々が長い列を作り、安倍元総理への弔意を示しているのは驚きである──。数キロにわたる東京都心部の献花者の行列を観て、多くのメディアや言論人が「驚き」のニュアンスを語った。海外メディアもこの行列を報じた。BBCは「国民の6割が(国葬に)反対しているが、ふたを開けると長蛇の列だったのは驚き」というニュアンスで報じた。

献花に2万人超という数字は本当に"驚くほど多い"と言えるのだろうか。結論から言えば私は、数えきれない政治集会に参加した経験から、この数字になんら驚きを感じない。行列も「驚くべき」長さであるとも思わない。かつて実行された保守系の集会は、ネット動画で告知しただけで東京に1万人超が集まり、27日と同じように都心部で長蛇の行進が生まれたからである。日本のみならず海外のメディアまでもが「健忘症」に陥ってしまったのだろうか。

むろん、国葬での一般献花は政治的意志を示すとは限らないし、献花者が必ずしも政治的に保守であり自民党支持層であるとも限らない。不幸にも選挙活動中に倒れた故人への純粋な弔意で訪れた人は少なくないであろう。しかし「安倍元総理のやることなすことすべてが気に食わない」という人は、原則的にこの献花の列に加わっていないと考えるのが自然である。

かつて1万人規模の催事は普通

今をさかのぼること2012年夏、電通とフジテレビが「偏向左翼メディア・企業」であると主張し、東京のお台場に10,000人を超える支持者が集まった。この集会は二つの民間政治団体が主にネット動画で呼び掛けたもので、周辺地区での行進も付帯した。これに呼応した人々の数は最終的に約11,000人~12,000人であった。

同年の冬、すなわち2012年11月には第二次安倍政権樹立を目指し、きたる同年12月16日の衆院選挙での自民党勝利を熱望した保守派の大集会が日比谷野音を貸切って行われた。この集会は銀座方面での行進をセットにしていたが、参加者は約8,000人(9,000人とも)だった。奇遇なことにこの集会には後に命を落とすことになる安倍氏が来賓挨拶し、スピーチを行っている(当時私も、安倍氏の後に登壇して演説した)。思えば歴史の皮肉ともいえよう。この呼びかけもネット動画が主であった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story