コラム

大人になりたくない!?日本人と年齢の不思議

2014年02月04日(火)10時25分

今週のコラムニスト:スティーブン・ウォルシュ

[1月28日号掲載]

 日本人は年齢に特別な関心があるらしい──初めて日本人と知り合ったとき、そんな印象を感じる欧米人は少なくない。欧米では、相手に年齢を聞くのは時として失礼な行為と見なされるし、そもそも職業や出身地、興味の対象、価値観などと違って、どうでもいいことだと思われている。だから、年齢を重視する日本人がよく理解できない。

 とはいえ、考えてみれば年齢を重視する日本の慣習は実に理にかなっている。欧米では普通、会社での地位は年齢ではなく能力や実績に基づいて決まる。しかしこうした評価は相対的なものであり、どうにでも解釈できる。そのため意見の相違や対立、混乱が生じかねない。

 一方、日本では年齢はその人の地位を知る重要な手掛かりになる。年齢は誰も異議を唱えられない客観的データだ。それに基づいて地位を定めれば、欧米のやり方で生じるような対立を避けられる。その結果、「和」が保たれていくというわけだ。

 20歳になる若者が大人になったことを一斉に祝う成人の日にも、欧米人は興味をそそられる(まるで毎年同じ日に1歳年を取る競走馬のようだ!)。私も成人式が大好きだ。華やかな着物に身を包んでぎこちなく歩く若い女性や、おしゃれなスーツやはかまを着た若い男性の晴れやかな姿を見て、いつも楽しい気持ちになる(ただ最近は、男性のほうが女性よりヘアスタイルに時間とカネを掛けているんじゃないかと思ったりもするが)。

 とはいえ、成人の日にはもっと重要な意味がある。この日を迎えた若者は親や国の管理下を離れ、自分で責任を持って生きられる大人に成長したと考えられる。

 どんな社会も若者を守ろうとするものだが、とりわけ日本は親や社会が若者をできるだけ長く安全な管理下に置こうとするように思える。一方、欧米では早くから子供が大人の世界に踏み出す時に備え、そこで生き抜く手段や経験を与えようとする。私の母国イギリスでは、オーストリアやキューバのように16歳から選挙権を与えることが検討されている。

■年齢引き下げにますます消極的

 18歳になっても選挙で投票できない国は世界192カ国中わずか22カ国で、日本もその1つ。国連の「児童の権利に関する条約」では、18歳未満が児童と定義されており、18歳からは立派な大人と見なされる。しかし日本の場合、大人としての社会的責任を負うのは20歳からだ。

 日本政府も民主主義国家の国際標準に合わせようと、選挙権年齢の引き下げを議論してきた。その場合、飲酒や馬券の購入、親の同意なしの契約を認める年齢をどうするか、という問題もあるが、この問題をめぐる改革が一向に進んでこなかったのは、主に自民党内の慎重論や無関心のせいだ。若い有権者が増えれば、古くからの支持者に頼る自民党を揺るがすことになる。

 残念ながら、最近は成人年齢をめぐる改革の動きがますます鈍くなっている。昨年末に内閣府が発表した世論調査では、成人年齢を現行の20歳から18歳にすることに69%が反対。賛成は約26%だった。この問題そのものについても29・6%が「関心がない」と答え、08年の前回調査を5・6ポイント上回った。

 私は毎年、成人の日を楽しみにしているが、一方で年齢がらみの気に入らないイベントもある。還暦だ。私もその年齢に近づきつつあるが、60歳になった記念に赤い頭巾とちゃんちゃんこを着せられて、写真館で写真を撮るなんて風習はなくしてほしい。そもそも私にそんな格好が似合うわけがない。

 私の子供やイギリスの友人は、還暦の衣装を身に着けた私の写真を見て大笑いするチャンスを心待ちにしているに違いない。しかし成人の日を迎えて喜ぶ日本の若者たちと違って、私はそんな自分の写真をとても笑顔では見られない!

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story