コラム

セレブはヌード写真を撮ってクラウドに保存するのか?

2014年09月06日(土)15時19分

 アップルのクラウドサービスiCloudからセレブのヌード写真が流出した事件は、インターネット・ユーザーにとっては大きな学習機会である。他人事と傍観するのも一手だが、この騒ぎにどんな要素が含まれているのか、ちょっと考えてみよう。

 まず、セレブらはこんな写真を撮って保存しているのだなあ、という単純な発見。「そんな脇の甘いことをしているから、こうなるのよ」という声もかなりあるらしいが、実際スマートフォンでヌード写真を送受信する人々はどんどん増えているそうだ。

 インターネット時代に関連した調査で定評のあるピュー・リサーチセンターによると、スマートフォン・ユーザーのうち、自分のヌード写真を誰かに送ったことのある人は9%(2013年5月の数字)で、これは1年前に比べて3%の増加。また受け取ったことのある人は20%で、こちらは5%の増加という。3%は受け取ったヌード写真をさらに別の人に転送するという(その割合は変化なし)。

 今やスマートフォンは、親密な関係を促進する道具となっていて、昔ならば電話で色っぽい声を出していところ、スマホによる写真送信に取って代わられたとも言える。

 普通の人でもそうなのだから、セレブならなおさらだ。自分の身体を常にチェックしているだろうし、今回は若い頃の写真も混ざっていたというから、オーディションのためにテストしていたのかもしれない。

 それに、クラウドサービスをよく理解していなかったケースも考えられる。設定によっては、撮った写真はiPhoneなどの機器側とクラウド上と同時にシンクロされる。手元の機器の中にあるだけと勘違いし、安心していたのではないか。

 そして、クラウドサービスはハッキングされるという事実もわかった。今回はiCloud自体がごっそりと不法侵入されたのではなくて、複数のセレブのアカウントが狙い撃ちされたことになっている。ハッカーはパスワードが当たるまでトライし続けて侵入に成功した。つまり、普通ならば何度か失敗すれば入力できなくなる、パスワードのセキュリティー設定が働いていなかったのが原因だ。

 だが、クラウドの安全性については、かなり安全でも100%の保障はないということを覚えておいた方がいい。セキュリティー関係者からよく耳にする言葉は「狙い撃ちされない限り......」。つまり、かなり高度な技術を持つハッカーらが集団で執拗に攻撃してきた場合、防御できない可能性はゼロではないということだ。もちろん、内部関係者による漏洩の可能性もあるだろう。

 それでもクラウドサービスは便利だから使い続けたいという場合には、複雑なパスワードを設定し、さらにファイルを暗号化するなどの対策が必要だ。

 また、この手の話題は火がついたように広まることも、再びよくわかった。流出した写真はツイッターやフェイスブックで瞬く間に増幅され、いったん広まってしまったものは元へ戻せない。メディアも、流出写真を掲載せずに報道したところと、部分的に黒塗りして掲載したところ、あからさまに写真を出して報道したところと、いろいろなスタンスが見られた。

 さて、ハッカーらは罪に問われるのか。現在、FBIが調査中というが、有罪になることは明らかだ。不法侵入、窃盗に加えて、著作権侵害、プライバシー侵害、未成年ポルノ写真流布などの罪に問われることになる。

 それでは、ツイッターなどでこうした写真を広めた人々はどうなるか。ツイッターやフェイスブックは、すでにそうしたユーザーのアカウントを一時停止したという。これはユーザー規約に基づく処置で、著作権侵害を根拠に行ったものと思われる。こうしたヌード写真は、撮影した本人(この場合はセレブ自身や撮影した人)に著作権があるからだ。たとえばツイッターの場合は、「著作権侵害となるコンテンツは予告なく削除し、(中略)ユーザーが繰り返して侵害する場合は、アカウントを取り消す」と規約に書かれている。

 基本的に、こうしたサイトはユーザーが犯した罪をサイト側がかぶらないように線引きをしているので、もしユーザーが何度もヌード写真をアップしていたら、ユーザー自身が著作権侵害等の罪で問われる可能性も出てくる。

 アップルの株価にも影響が出た。ヌード写真騒ぎで100ドル以下に価格が下がり、一時的には時価総額が260億ドルも落ち込んだ。iCloudのシステム自体が攻撃されたのではないとわかってから徐々に持ち直したものの、クラウドサービスに対する人々の不信感が表面化してしまったかたちだ。

 そうして、ここへ来てささやかれているのが、セレブがアップルを訴えるのではないかという噂。こうした目立ったケースは話題にもなり、そして他のテクノロジー企業へのみせしめとなる。おそらく今、関係弁護士らが忙しく準備に動いているところだろう。

プロフィール

瀧口範子

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』、『行動主義: レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家: 伊東豊雄観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち: 認知科学からのアプローチ(テリー・ウィノグラード編著)』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

今期事業計画はかなり保守的=永守ニデックグループ代

ワールド

米上院、TikTok禁止法案を可決 大統領に送付

ワールド

NASA長官、気候問題対策で各国に協力強化呼びかけ

ワールド

ロシア、24─26年原油輸出価格見通しを65ドルに
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story