コラム

「金持ち優遇税制」というけれど

2011年10月15日(土)19時16分

 アメリカ・ニューヨークで始まった「ウォールストリートを占拠せよ」の運動は、全米に広がりを見せています。格差社会アメリカの抱える問題が一気に噴出した感があります。

 格差是正のひとつとして、オバマ大統領は、富裕層への増税を打ち出しました。このニュース、日本の新聞を読んでいる限りでは、至極もっともな政策だと感じていました。アメリカの税制がおかしいから、これを直そうというのは当然だと思っていたのですが......。

本誌日本版10月5日号に、「富裕層に増税したいオバマの悲しい計算ミス」という題名の記事が掲載されています。これを読んで、意外な事実を知りました。アメリカの富裕層の所得税率が高いというのです。

 「実はアメリカでは、最富裕層の所得税率は低所得の国民と比べて非常に高い。年間所得が100万ドルを超える国民が納めている連邦所得税率は平均29%強だ。所得が減るに従って税率は変化し、2万~3万ドルだと5・7%にまで下がる。上位20%の高額納税者が、連邦税総額の実に70%近くを負担している」

 うーむ、これを読むと、アメリカの税制に対する印象が変わります。アメリカも累進課税をしているではないか。

 ただ、29%強が「非常に高い」という表現が妥当かどうかは疑問です。日本の場合は国税としての所得税の最高税額が40%、それに地方税である住民税が加わると、最高55%になるからです。

 日本に比べれば、まだまだ低いではないか、と突っ込みを入れたくなりますが、それでも、アメリカでも高額所得者は税負担の割合が低所得者より大きいというのは意外でした。なんで日本の新聞は、こういうことをきちんと書かないのか、と思ってしまいます。

 大富豪の投資家ウォーレン・バフェットは、自分が自分の秘書(当然ながらバフェットより所得が低い)より低い税率しか国税を払っていないことをおかしいと言っています。この主張だけを読むと、「アメリカの税制はおかしい」と思いますが、この記事によれば、バフェットの収入の多くが投資の収益であり、これに関しては、税率が15%のキャピタルゲイン(資産売却所得)税が適用されているからだというのです。

 株式投資など投資活動を活発にするために、投資の収益に関して低い税率を課すというのは、理論的にありうることです。投資できるのは富裕層ですから、結果的に金持ち優遇税制になっていますが、アメリカの株式投資は多くの中間層が関わっています。キャピタルゲイン税を引き上げると、中間層に打撃を与える可能性があるというのです。

 オバマの増税路線を伝える日本の新聞も、アメリカの税制の仕組みをきちんと解説する必要がある。この記事は、そのことを教えてくれました。

プロフィール

池上彰

ジャーナリスト、東京工業大学リベラルアーツセンター教授。1950年長野県松本市生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHKに入局。32年間、報道記者として活躍する。94年から11年間放送された『週刊こどもニュース』のお父さん役で人気に。『14歳からの世界金融危機。』(マガジンハウス)、『そうだったのか!現代史』(集英社)など著書多数。

ニュース速報

ビジネス

中国11月PPIは前年比+3.3%、5年ぶり高い伸

ビジネス

焦点:高値突破の日本株に様相変化、中長期マネー流入

ワールド

韓国国会、朴大統領の弾劾訴追案を可決

ビジネス

TPP承認・関連法、参院本会議で成立 米脱退で「漂

MAGAZINE

特集:THE FUTURE OF WAR 未来の戦争

2016-12・13号(12/ 6発売)

AI、ドローン、ロボット兵士......進歩する軍事技術は 新時代の戦場と戦闘の姿をここまで変える

人気ランキング

  • 1

    今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

  • 2

    韓国「崔順実ゲート」の裏で静かに進む経済危機

  • 3

    米ルビオ議員、南シナ海の領有権問題で対中制裁法案──トランプ新政権に行動を促す

  • 4

    トランプが仕掛ける「台湾カード」 中国揺さぶりのも…

  • 5

    光熱費、電車賃、預金......ぼったくりイギリスの実態

  • 6

    マドンナ、トランプに投票した女性たちに「裏切られ…

  • 7

    来週プーチン露大統領来日、北方領土への期待値下げ…

  • 8

    「トランプ劇場」に振り回される習近平

  • 9

    「季節感」がない中国にバカ騒ぎの季節がやって来る

  • 10

    トランプ「薬価引き下げる」 具体案は示さず、製薬…

  • 1

    トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

  • 2

    マドンナ、トランプに投票した女性たちに「裏切られた」

  • 3

    トランプ氏、ツイッターで中国批判 為替・南シナ海めぐり

  • 4

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年…

  • 5

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結…

  • 6

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 7

    インターポールも陥落、国際機関を囲い込む中国の思惑

  • 8

    トランプ、ボーイングへのエアフォース・ワンの注文…

  • 9

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 10

    トランプが仕掛ける「台湾カード」 中国揺さぶりのも…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 3

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時に分かる?

  • 4

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気に…

  • 5

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 6

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 7

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 8

    安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指…

  • 9

    「ハン・ソロとレイア姫」の不倫を女優本人が暴露

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!