コラム

「租税競争」に日本は生き残れるか

2009年11月05日(木)18時15分

 経済危機が一段落した今、先進国と新興国の新たな闘いが始まっている。先日、ある総合商社の幹部から「いま日本のメーカーは徹底的なコストダウンのために本格的な生産拠点の移転を考えている」という話を聞いた。請負契約が規制され、派遣規制が強化されて労働コストが上がり、他方で韓国や台湾から「法人税を1年間免除するから工場を移転しないか」といった誘いが増えているという。東芝やシャープなどが生産拠点を海外に移し、サンスターは本社をスイスに移した。

tax.jpg

アジア各国の法人税率(KPMG調べ)


上の図は、アジア諸国の法人税を比較したものだが、税率は年々下がっており、日本の税率はアジア平均の2倍近い。これはあくまでも法人税だけを比較したもので、社会保険料などの負担を考えると日本企業の負担は50%を超え、他方で中国や韓国などは企業誘致のために法人税を10%台に減免するなどの措置をとっている。企業が生産拠点を海外に移す重要な要因が、この租税競争なのだ。

 OECD諸国でも最高水準になった日本の法人税率を維持したまま、民主党の公約している雇用規制や環境基準の強化を進めれば、製造業は生産拠点を海外に移転するしかない。日本生産技能労務協会の調べによると、製造業への派遣労働が禁止されれば、2割の企業が海外への生産移転を考えているという。

 これに対して、労働組合などから「企業の海外移転やアウトソーシングを規制すべきだ」という声が出はじめている。こういう要求はアメリカでも出ているが、これから海外移転が増えると、こうした保護主義が日本でも出てくるおそれが強い。政府の国家戦略室の「政策参与」になった湯浅誠氏は、今週の『週刊東洋経済』で次のようにのべている。


輸出型の大企業も、日本人を雇用して日本の消費者を相手にして国際企業に成長したわけですよね。そのくせ税金の安いところに国籍を移すとしたら、その姿勢やモラルを社会は許容すべきではありません。[中略]生存を確保するための最低限の規制は必要です。企業もそこはあきらめてほしい。


 こんな規制をしたら、ただでさえアジア企業との競争に脅かされている日本の製造業は壊滅し、結果として雇用も失われるだろう。それは企業の利益を守るか労働者の利益を守るかという利害対立の問題ではない。保護主義はすべての国を不幸にするというのが、アダム・スミス以来200年以上変わらない経済学の真理なのである。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

ニュース速報

ワールド

イタリア首相、辞意を表明 敗北は「極めて明確」

ワールド

バルス仏首相、大統領選出馬を5日表明へ=報道

ビジネス

三井住友とみずほ、露ガスプロムに950億円融資 日

ワールド

中国・内モンゴルの炭鉱爆発で32人死亡、事故相次ぐ

MAGAZINE

特集:トランプ時代の国際情勢

2016-12・ 6号(11/29発売)

トランプ次期米大統領が導く「新秩序」は世界を新たな繁栄に導くのか、混乱に陥れるのか

人気ランキング

  • 1

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年には空母も

  • 2

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結成した理由

  • 3

    プーチン年次教書「世界の中心で影響力」を発揮する

  • 4

    タイ新国王が即位しても政情不安は解消されない

  • 5

    百田尚樹氏の発言は本当に「ヘイトスピーチ」なのか…

  • 6

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 7

    初の極右国家元首ならず、オーストリア大統領選は親…

  • 8

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 9

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

  • 1

    「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

  • 2

    内モンゴル自治区の民主化団体が東京で連帯組織を結成した理由

  • 3

    イギリス空軍、日本派遣の戦闘機を南シナ海へ 20年には空母も

  • 4

    スラバヤ沖海戦で沈没の連合軍軍艦が消えた 海底か…

  • 5

    悪名高き軍がミャンマーで復活

  • 6

    新卒採用で人生が決まる、日本は「希望格差」の国

  • 7

    バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時…

  • 8

    偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

  • 9

    東京は泊まりやすい? 一番の不満は「値段」じゃな…

  • 10

    イタリア政府、憲法改正国民投票を12月4日実施 首相…

  • 1

    トランプファミリーの異常な「セレブ」生活

  • 2

    68年ぶりの超特大スーパームーン、11月14日に:気になる大地震との関連性

  • 3

    「トランプ勝利」世界に広がる驚き、嘆き、叫び

  • 4

    注目は午前10時のフロリダ、米大統領選の結果は何時…

  • 5

    トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実

  • 6

    米大統領選、クリントンはまだ勝つ可能性がある──専…

  • 7

    トランプ勝利で日本はどうなる? 安保政策は発言通…

  • 8

    【敗戦の辞】トランプに完敗したメディアの「驕り」

  • 9

    安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指…

  • 10

    北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは...

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

日本再発見 「五輪に向けて…外国人の本音を聞く」
リクルート
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

『ハリー・ポッター』魔法と冒険の20年

絶賛発売中!