コラム

単位の新しい接頭辞が31年ぶりに追加 なぜ今なのか? 必要性は?

2022年04月26日(火)11時00分

フランスで普及したメートル法は、1875年に「メートル法を国際的に確立し、維持するために、国際的な度量衡標準の維持供給機関として、国際度量衡局を設立し、維持することを取り決めた多国間条約」(メートル条約)が結ばれ、国際間で使われるようになりました。日本がこの条約に加盟したのは、10年後の1885年のことです。

当時の日本のメートル法の導入はどのような歩みだったのでしょうか。

日本では尺貫法が用いられていました。メートル法について初めて本格的に紹介したのは、1855年に郡上藩主青山幸哉の命で編纂された『西洋度量考』とされています。

1885年にメートル条約に加盟すると、1890年にメートル原器とキログラム原器が日本に届けられました。けれど、戦前は依然として尺貫法が優位でした。日本でメートル法が完全実施されたのは、1959年(土地・建物の坪表記は猶予が認められ、メートル法に移行したのは1966年)です。

「宇宙の果て」は約0.13ロナメートル

メートル法は1954年に、時間や化学量も含めた国際単位系に発展します。メートル条約に基づいて単位系の維持と見直しを行う国際度量衡総会(CGPM)で「長さ(メートル)、質量(キログラム)、時間(秒)、電流(アンペア)、熱力学温度(ケルビン)、光度(カンデラ)」の6つの基本単位が採択されると、1971年には物質量(モル)が7つ目の基本単位と認められます。

国際単位系の定義は2019年に抜本的に見直され、「『基底状態のセシウム133の超微細構造の周波数、真空中の光の速さ、プランク定数、電気素量、ボルツマン定数、アボガドロ定数、540×10の12乗Hzの単色光の発光効率』の7つの定義定数の数値を固定することによって、逆に国際単位系を定義する」と再定義されます。もっとも歴史的経緯や利便性から、現在も国際単位系は、旧定義の7つの基本単位と組立単位、SI接頭辞で表記される場合が多いです。

ここで組立単位とは、「平方メートル」のように基本単位を掛け算や割り算で組み合わせる単位です。SI接頭辞は、主に1000倍(10の3乗)、1000分の1(10のマイナス3乗)ごとに名付ける位取りを示す表現です。これまでは1991年に制定されたゼタ(10の21乗)、ゼプト(10のマイナス21乗)、ヨタ(10の24乗)、ヨクト(10のマイナス24乗)が最新でした。

巨大(あるいは微小)な数を表したい場合は、1のあとに(小数点のあとに)ゼロをたくさん付ければ表記できますが、非常に読みにくくなります。そこで、たとえば0.000000001グラムの代わりに1「ナノ」グラム(10のマイナス9乗グラム)と表記するのがSI接頭辞です。

今年は11月に第27回CGPMが行われます。3月に総会に諮られる内容の草案が公表されると、その中には新たな接頭辞――ロナ(10の27乗)、ロント(10のマイナス27乗)、クエタ(10の30乗)、クエクト(10のマイナス30乗)──も含まれていました。

接頭辞を増やして、プラスマイナス30乗の合計60桁に対して位取りを名付けると、どれくらい便利になるのでしょうか。長さ、時間、質量について検討してみましょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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