コラム

AIが作った香水、ブラジルで発売

2019年08月15日(木)13時00分

磨き抜かれた嗅覚と芸術的センスが必要な調香師の仕事でも、AIが勝った NAKphotos-iStock.

エクサウィザーズ AI新聞から転載

ドイツの放送局Deutsche Welleによると、AIが作った香水がこのほどブラジルで発売された。といってもAIに嗅覚はないので、これまでの香水の配合データなどを基に、いろいろな成分の配合パターンをAIがレコメンドし、それをベースに調香師が配合を調整した香水を幾つか用意した。消費者グループの人気投票の結果、調香師の調整なしのものが最も人気が高かったという。

このプロジェクトを進めたのは米IBMリサーチ社と、フレグランスメーカーのSymrise社。両社の合同プロジェクトとして、香水を作るAI「Philyra」を開発した。

調香師は約1300もある香りの元を組み合わせることで、香水を作る。具体的には、花や苔、スパイス、フルーツのほか、人工的に作られた香りの元などを組み合わせるのだという。Symrise社には、これらを組み合わせた170万件もの香りのレシピのデータベースがあり、これをAIに読み込ませた。またどの香水が、どういった年齢、性別、国籍のグループに購入されてきたかというデータもインプットし、それをディープラーニングというAIの手法で学習させた。

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Deutsche Welle

今回はブラジルのバレンタインデー(6月12日)に若者向けの香水を発売する目的で、これまでにないような配合レシピをAIに提案させた。また新製品に対する消費者の反応も予測させた。

Symrise社では、結局3つの製品を開発。1つは、AIの提案を参考にしながらも調香師が配合した香水。2つ目は、AIの提案通りに配合したものを調香師が少し調整した香水。3つ目は、AIの提案通りに配合した香水。

ユーザーグループに3つの香水を試してもらったところ、AIの提案通りに配合した香水が圧倒的に人気だったという。

人間は成功体験をベースに同じようなことばかりする傾向があるが、AIは人間が思いも寄らないような突拍子もない提案をするもの。AI自身に嗅覚はなくても、過去のデータを使って今までにない製品を作ることができたのだ。ひょっとすると香水以外の領域でも、大量のデータさえあればAIが新商品を開発できるかもしれない。

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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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