コラム

21世紀最大のビジネスチャンス「ヘルスケア」に挑むAmazonの可能性

2018年02月09日(金)13時09分

テクノロジーを駆使した新しいヘルスケアで医療費は下がるのか chombosan-iStock.

AI新聞から転載

Amazon、Berkshire Hathaway、JPMorgan Chaseの3社が、米国内従業員のための独自のヘルスケアの仕組みを立ち上げると発表した。日本ではほとんど話題になっていないが、米国ではこの発表を受けドラッグストアや保険会社など関連する先行企業の株価が軒並み下落するなど、大変な反響を呼んでいる。健康ビジネスは、故スティーブ・ジョブズが「21世紀最大のビジネスチャンス」と称した領域。この津波は、形を変えいずれ日本に押し寄せてくるのは間違いない。いったいこれから何が起ころうとしているのだろうか。

発表文には、「3社の従業員とその家族を対象に、テクノロジーを使って質の高いヘルスケアを安価で提供する」ということ以外、ほとんど何も書かれていない。その詳細がないということが、かえって憶測を生んでいる。

有力紙・誌がこの動きをどのように見ているのか、まとめてみた。


Forbes誌

Forbes誌は「Disruption, Thy Name Is Bezos ... And Dimon And Buffett!」という記事で、この発表文を大きく取り上げた。幾つか興味深い事実と、同誌の憶測をピックアップしてみよう。

まず興味深い事実だが、次のような点が挙げられる。


・今回の発表文一本で、UnitedHealth, Aetna、 Humanaといった健康ビジネス業界大手の株価が大きく下落.

・ウォーレン・バフェット氏率いるBerkshire Hathaway は、様々な子会社、関連会社を傘下に持つ持株会社だが、関連会社の中には保険会社もある。

・バフェット氏は「膨れ上がるヘルスケアのコストは、米国経済の寄生虫のような存在だ」と発言したことがある。

・同氏は、オバマケアをトランプ政権が取りやめようとすることに対し、「金持ちが得するだけだ」と批判している。

・JP Morgan'のJamie Dimon氏はガン生存者。コストを抑える形での医療のイノベーションの重要性を熱く語ってきた。

バフェット氏もDimon氏も、今回の事業に関しては、かなりの思入れあることが分かる。

一方で、Amazonなど3社は今後どのように事業を展開するのだろうか。Forbes誌の憶測は次のような感じだ。


・電子カルテの普及促進

昔から電子カルテの重要性が強調されているが、既得権益者の思惑もあり、電子カルテの流通がスムーズに行われているとは言えない状態。でも「Amazonプライムのような形で、個人の医療データをクラウド上で管理することが、可能なはず」。

・自分たちだけの健康保険

3社とも、比較的若くて健康な社員を何万人と雇用している。高齢者を多く抱える他社の健康保険を利用するよりも、自社だけの健康保険を作ったほうが掛け金を抑えることができるはず。Amazonにはデータ分析の力があり、Berkshireには保険業界のノウハウがある。JP Morganには資本と多数の従業員を持っている。「自分たちの保険会社を作りたいという誘惑にかられないわけはない」。

・医薬品やヘルスケア商品の中間業者の中抜き

Amazonは、同社サイト上で医薬品を取り扱おうとして、12の州政府から認可を取り付けている。また医薬品の卸問屋は、かなりの利益を得ているといわれている。「中間業者を排除するだけでも、かなりのコスト削減になるだろう」。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story