コラム

Pixelに見る新しいGoogleの哲学:「垂直統合への移行」と「厳しすぎるプライバシー保護よりAIの利便性」

2016年10月05日(水)16時00分

Beck Diefenbach- REUTERS

<グーグルが新スマホPixelを発表した。人工知能(AI)「Googleアシスタント」を搭載し、グーグルが蓄積してきたデータを組み合わせることで利便性を追求した端末だ>

 モバイル業界の2強と言えば、GoogleとApple。それぞれが「スマートフォンはこうあるべき」「テクノロジー業界はこう進むべき」という哲学を持ち、その哲学をそれぞれの製品に反映させている。今回Googleが発表したスマートフォンPixelも同様にGoogleの哲学を反映しているが、そこには過去からの微妙な変化が見られる。

垂直統合Apple哲学の勝利

 過去20年以上に渡ってテクノロジー業界を2分してきた論争がある。「水平分業」と「垂直統合」のどちらが優れているのかという論争だ。

 1980年から2000年ぐらいまでのパソコン全盛時代において、勝利したのは「水平分業」だった。半導体はIntel、基本ソフトはMicrosoft、パソコンのハードウェアはNECや富士通といったパソコンメーカーが担当する、という形の水平分業だ。パソコンメーカーが価格競争をしたおかげで、MicrosoftのWindowsを搭載したパソコンはどんどん安くなり、職場や家庭に普及していった。

【参考記事】人材流出が止まらぬグーグル自動運転車プロジェクト、何が起きてるのか?

 Appleは、ハードからソフトまで1社で作る「垂直統合」にこだわり、性能面では高く評価されたものの、価格面ではWindowsパソコンに及ばす、市場シェアで大きく水を開けられた。

 2000年代終盤からはスマートフォン全盛時代に入ったが、Appleはスマホでも「垂直統合」にこだわった。一方の雄Googleは「水平分業」戦略を取り、基本ソフトAndroidを無償で提供、Apple以外のスマホメーカーは一斉にAndroidを採用した。

 Androidの市場シェアは勢いよく伸び、業界内ではしばらくの間「やはり水平分業モデルのほうが優れている」という意見の方が多かったように思う。

 しかし、確かに途上国での低価格のAndroidのシェアは堅調に推移したが、先進国ではiPhoneが圧倒的な強さを誇っている。しかもシェアではなく利益率で見るとAppleは圧倒的に強く、その潤沢な資金をベースにさらなる技術革新を続けている。一方でAndroid陣営の中には、価格競争に疲弊し、脱落するメーカーも出始めた。

【参考記事】人工知能が加速させるボイス革命

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story