コラム

米軍撤退後のアフガニスタンの空白は「一帯一路」の中国が埋める

2019年07月31日(水)17時20分

タリバンを含むアフガニスタン人は侵略者に屈してこなかった MIAN KHURSHEEDーREUTERS

<トランプはタリバンとの和平合意を焦るが、共産党の世界戦略完成は結果的にアメリカの不利に>

アメリカとアフガニスタンの反政府武装勢力タリバンがついに合意形成に近づきつつある。6月末から7月初めにかけて中東のカタールで行われた7度目の協議で、双方は(1)アメリカが駐留軍の撤退スケジュールを明確にする、(2)アフガニスタンを他国攻撃の基地として使わない、(3)タリバンは同国政府を含む各界代表から成る「アフガン人会合」に参加し、平和構築に向けて対話を開始する、(4)停戦し捕虜を解放する――ことで一致した。

この合意が本当に調印まで行けば、アメリカ史上最長の戦争が終結を迎える。01年9月11日に発生した米同時多発テロをきっかけに、米軍のアフガニスタンでの戦闘は18年間も続いている。あまりにも長期間にわたって駐留し続けた結果、米軍内には厭戦気分が蔓延している。テロとの戦いに「勝利」した以上、中央アジアの奥地の「山岳の小国」に米軍を駐留させる「商売にならない作戦」にトランプ米大統領はいら立ちを隠さない。

アメリカはこれまで合意後2年程度で軍を撤収すると主張してきたのに対し、タリバンは半年以内と譲らなかった。しかし、今回の和平文書原案では、この停戦と撤退の時期についても、双方からの歩み寄りがあった、と報道されている。アメリカの焦燥感は何に由来するのか。

79年のソ連侵攻後、アメリカは聖戦士ムジャヒディンを支援する形でアフガニスタンに関与してきた。「盟友」ウサマ・ビンラディンは聖戦士の1人だったが、彼らはやがてアメリカも敵だと認識する。聖地メッカがあるサウジアラビアに駐留する異教徒の米軍の存在は宗教への冒瀆だ、と理解したからだ。

アフガニスタンはその独特な地理学的環境と地政学上の優位を武器に、多大な犠牲を払ってソ連軍とも米軍とも持久戦を展開し今日に至る。侵略者には屈服しないという遺伝子が、アフガン人の血には流れている。

タリバンとアメリカは合意文書の履行を担保するため、ソ連時代のアフガニスタンの「旧敵」ロシアやドイツなどの国々に「保証国」として和平構築に参加するよう打診している。これとは別に、タリバンは隣国の中国とも頻繁に接触している。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

新発10年国債利回りが1.705%に上昇 17年半

ビジネス

日本郵政、通期純利益予想3200億円に下方修正 物

ビジネス

ニデック、半期報告書のレビューは「結論不表明」

ビジネス

みずほFGが通期上方修正、純利益27%増の1兆13
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 6
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story