コラム

米軍撤退後のアフガニスタンの空白は「一帯一路」の中国が埋める

2019年07月31日(水)17時20分

中国とタリバンの極秘接触は遅くとも16年には始まった。タリバンに新疆ウイグル自治区出身のウイグル人が加入していたことが判明してから、中国は独自の「反テロ」作戦の一環として、「悪魔との取引」を進めてきた。6月20日、中国外務省報道官はタリバンのドーハ政治事務所のバラダール代表を団長とする代表団が北京を訪問し、「平和と和解のプロセス、テロリズム対策」などについて意見を交わした、と認めた。

ウイグル人が狙いではない

中国がタリバンと交渉するのは、あくまでタリバン内のウイグル人排除が狙いだと従来から言われてきた。しかし問題はそう簡単ではないようだ。「北京はもっと積極的で壮大な戦略を練っている」と、米軍と共にアフガニスタンにPKO部隊を送るモンゴル軍の関係者はあるシンポジウムで報告した。中国軍は既に数年前からタリバンと合同で演習や警備活動をしているだけでなく、武器弾薬の援助も行っている。つまり、米軍とタリバンを戦わせ続けているのがほかでもない中国だという。

「タリバンのこぶしでウイグル人をたたくようなスケールの小さい話ではない。『一帯一路』の要衝としてのアフガニスタン全土の確保を目指し、北京とタリバンは蜜月期間に入った」と、モンゴル軍関係者は報告する。

中国の一帯一路戦略は、アメリカ主導の国際秩序を自国中心に変えようとする世界戦略である。アメリカがタリバンと合意、すなわち撤退すれば、アフガニスタンは中国の影響下に入る。一帯一路が中国政府の狙いどおりに完成に近づくと、結果的にアメリカにとって不利になる。

それでもトランプが合意を急ぐのは、来年の大統領選向けにアピールしたいからだとされる。ただ、その代償は高くつくかもしれない。

<本誌2019年8月6日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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