コラム

対米戦争も市場経済も大金星──そんなベトナムを金正恩は目指す

2019年02月23日(土)13時30分

経済視察に熱心な金正恩はベトナムで祖父・金日成の足跡をたどるかも KCNA-REUTERS

<米朝「因縁」の国ベトナムでの首脳会談開催はトランプのメッセージ? 中国の覇権主義とも戦った小国の覚悟に北朝鮮は倣えるか>

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は2月27~28日に、ベトナムの首都ハノイで2度目の首脳会談を開催する。

昨年6月のシンガポール会談は華やかなイベントにすぎず、「取りあえず世界から脚光を浴びよう」と両首脳とも思っただろうが、今回は違うはずだ。米朝両国にとって、ベトナムは特別な国だ。この因縁の地で長い対立に終止符を打ち、一歩前へ踏み出そうとしているのではないだろうか。

かつてベトナムは泥沼の戦争に耐えて、アメリカを敗走させた。ベトナム戦争終結から20年余り後の95年に国交正常化を実現。その間、ベトナムは86年からドイモイ(刷新)政策を進めて経済発展を遂げ、国際的な孤立状態から脱出していた。アメリカからすれば、ベトナムは対立から和解へと移行できた建設的なパートナーといえる。

一方、朝鮮戦争で戦った北朝鮮とは53年に休戦協定を結んだ後も国交樹立には程遠く、朝鮮半島は「冷戦最後の地」と言われる。国民を飢餓に追い込みながら軍事優先で核ミサイル開発に突き進んできた北朝鮮の歴代指導者も経済発展の重要性は認識していただろうが、本格的な改革開放に踏み切れないでいた。実際、金が中国を訪問するたびに先端科学技術を誇る同国の工場や研究所を見学するのは、

「自国を豊かにしたい」という気持ちの表れだろう。問題はどこを経済発展のモデルとするかだ。「ベトナムに見習え」と、トランプは金に言い聞かせるかもしれない。もはや行き詰まりを見せつつある中国流社会主義市場経済の「成功物語」よりも、対米関係において同じような歴史問題を見事に解決してきたベトナムのほうが身近な模範になりそうだ。

金にとっても、ベトナムは親しみを覚える相手だ。昨年12月3日、在ハノイ北朝鮮大使館は、「建国の父」金日成(キム・イルソン)国家主席のベトナム訪問60周年を記念する行事を開催して、両国の厚情を温めた。

中国の内政干渉に抵抗

容姿から歩き方まで祖父そっくりの正恩にとって、ベトナム訪問を実現すれば対内的に二重の宣伝になる。祖父の「偉大な足跡」をたどっていることと、祖父でさえ解決できなかった「米帝との戦後処理」を清算した、と誇示できるからだ。

ベトナムと北朝鮮の対米関係を考える場合、陰の存在となってきた大国、中国を忘れてはいけない。

中国は「抗米援朝/援越」という歴史ドラマの主人公だった。朝鮮戦争では50年から最終的に撤退する58年まで、中国は約135万人以上の「志願軍(義勇軍)」を投入した。犠牲者の中には最高指導者・毛沢東の息子も含まれている。中国と文字どおり「鮮血で固められた友情」を構築したことで、北朝鮮は国家の命脈を保てた。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米

ビジネス

米FRB、「ストレステスト」改正案承認 透明性向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任務戦闘艦を進水 
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    アメリカの現状に「重なりすぎて怖い」...映画『ワン…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 6
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 7
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story