コラム

アリババ会長も中国共産党員......「赤い資本家」がIT企業に潜む

2018年12月14日(金)16時40分

アリババのマー会長の貢献は中国共産党の誇り Shu Zhang-REUTERS

<成功のカギは商才より共産党のコネと労働者搾取? 世界的実業家が日米政財界とパイプを築く狙いとは>

「恋愛をしてもいいが、結婚してはいけない」。企業と政府との関係をそう例えたのは、中国の電子商取引大手アリババ・ドットコム創業者の馬雲(ジャック・マー)会長だ。米フォーブス誌によると彼の資産は346億ドルに達し、中国の長者番付トップの座を占めてきた。

今年9月、来秋には会長を退くと表明。政治に「清純」な彼は中国政府との「恋愛関係」に疲れ果てた末、第一線から引退して優雅な暮らしを送るのだろう──そう思われた矢先、マーが中国共産党員だと発覚し、世界に波紋を広げた。

共産党機関紙・人民日報が11月26日に公開した「改革開放に貢献した表彰者」リストにマーも含まれていた。共産党は党員を受け入れる際に、厳しい審査を長期にわたって実施。「共産主義の実現に命をささげる」と宣誓して、最終的に入党が認められる。

そのような政治的洗礼を受けていたならば、マーは一企業人として資本主義風に金を稼いできたのではなく、隠れ共産党員として市場原理を利用し、党と政府のために工作してきた、と言えよう。日米の政財界と太いパイプを築いたのも、リベラルな企業人として世界経済に貢献したというよりも「高級スパイ」として潜入したとみたほうがいいかもしれない。

そもそも中国ではアリババほどの規模になると、政府や共産党の触手から逃れて市場原理だけで経営などできない。改革開放を掲げた政府の「社会主義市場経済」は建前。実際の中国経済は共産党員である「赤い資本家」が国家資金を駆使して、国民を搾取する官営資本主義だ。

こうしたシステムは80年代に鄧小平が設計。その後は江沢民(チアン・ツォーミン)政権が制度化して企業家の入党を促し、政府高官と団結させて国有企業を支配した。労働者と農民の代表を自任する共産党が、ストライキ権を認めずに膨大な利益をひたすら搾取してつくり上げたのが中国の企業群だ。党員が「赤い資本家」として活躍している事実に即して言えば、中国には厳密な意味での私有企業は存在しない、と経済学者たちがみても無理はない。

それでも彼ら隠れ共産党員が純粋な企業人のふりをするのは、外国の資本や技術を呼び込むため。こうして成功した一例が、05年に亡くなった栄毅仁(ロン・イーレン)だ。

栄一族は清朝末期に上海で繊維工場を起こして成功し、中国から東南アジアにかけて一大勢力を成していた。1949年に中華人民共和国が成立した後、資本家の大半が香港か台湾に避難したが、栄は上海に残る選択をした。膨大な資産を共産党政府に提供しながら、非共産党系の民主党派、中国民主建国会(民建)の指導者になる。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story