コラム

黙らされたトランプ大統領──表現の自由の線引きを決めるのは民主国家か、ビッグテックか、デジタルレーニンか

2021年01月18日(月)17時50分

SNSという民間企業がモデレートを実施することの矛盾があるだけに、透明性を担保するルールづくりはとりわけ重要であり、「自由でオープンなグローバルインターネットを蝕んではいけない」と締めている。

それに続いて突然ビットコインに触れ、「私がビットコインに対して大きな情熱を感じているのは、特定の個人や団体による制御または影響を受けない基礎を成すインターネットテクノロジーを実現しているからだ。これこそがインターネットが目指すべき道であり、時間の経過とともに、より浸透していくだろう」と書いている。

トランプのアカウント閉鎖の話がなぜ仮想通貨に飛ぶのか、一般の人には唐突の感が否めないだろうが、ドーシーはビットコインが自律分散型組織(DAO=Distributed Autonomous Organization)によって運営機能している点を指していると思われる。DAOでは運営は自動化され参加者が民間運営企業を介さずに参加できる。

「われわれは、ソーシャルメディアのオープンな分散型標準に関するイニシアチブに出資することで役割を果たそうとしている。われわれの目標は、インターネットの公共的な会話の標準クライアントになることだ」

最終的には、1つの民間企業が独占するのではない万人が参加できる分散SNSの技術仕様(プロトコル)の開発を目指すため2019年に立ち上げた独立組織ブルー・スカイに触れてメッセージは終わる。

テックによる解決策に過度の期待は禁物

ジャック・ドーシーは、今回の判断は苦渋の決断で、それはSNS自らを傷つけるものだとし、オープンなインターネット空間を守るためにはプラットフォーマーが支配することには限界があるということを認めた。その点では、純粋に技術の力で人々のつながりによる平和を生み出すインターネットカンパニーの原点に戻ったかのように見える。

ただし、プラットフォームに代わる新しい技術仕様(プロトコル)の開発によって問題を解決しようとするツイッターの姿勢はエンジニアのブラックボックスに戻って、別の形で影響力と自由度を残すしたたかな戦略かもしれない。

ジャック・ドーシーは少年の頃からの天才エンジニアだ。神でも、倫理学者でもない。彼が、新しい自律分散テクノロジーのプロトコルで解決策を模索するのは自由だが、今後よほど注意深く見守る必要がある。

情報濁流の時代の表現の自由を誰がどう守るのか

アメリカの議事堂襲撃事件のニュースを聞いた中国共産党機関紙「人民日報」傘下にある「環球時報」の電子版「環球網」は1月7日に皮肉たっぷりな社説を載せている

曰く議会襲撃は香港の民主活動家が香港政庁を攻撃した騒動とどう違うのか。香港の暴徒は民衆の英雄で、今回のトランプ支持者は英雄ではなく暴徒なのかと。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去

ワールド

米制裁下のロシア北極圏LNG事業、生産能力に問題

ワールド

豪GDP、第2四半期は前年比+1.8%に加速 約2

ビジネス

午前の日経平均は反落、連休明けの米株安引き継ぐ 円
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story