World Voice

日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

コロンビア初の黒人副大統領となるか。今注目の人物フランシア・マルケスとは?

©️YouTube - Francia Márquez habla sobre la despenalización del aborto | El Tiempo

今月半ばに大統領予備選挙を終えたコロンビア。5月に控えた本選にむけて政治関連の話題が絶えませんが、ある一人の女性に特に注目が集まっています。

その女性の名前はフランシア・マルケス。次期大統領に立候補していましたが、予備選で同じ政党連合に所属するグスタボ・ペトロ氏がより多くの票を獲得したため大統領候補からは外れました。それでも今彼女の名前をニュースで聞かない日はありません。貧しい家庭で生まれ環境・人権活動家となったのちに、政治家の道へと進んだフランシア。政治経験がないにも関わらず予備選では経験豊富な政治家達を抑えて獲得票数第3位という快挙を成し遂げました。

コロンビアで今一番注目されている女性フランシア・マルケス。一体何者なのかを現地報道を元に調べてみることにしました。

スクリーンショット 2022-03-28 午後9.25.16.png

©️YouTube - Francia Márquez: luchar contra la minería

  

裕福でなかった幼少期・シングルマザー

フランシア・マルケスは環境活動家、人権活動家、弁護士、フェミニスト(男女同権主義者) と様々な肩書を持つアフリカ系コロンビア人です。1982年12月1日にカウカ県スアレス地区のアフリカ系コロンビア人が集まる地域に生まれました。

母は助産師、鉱山労働者、農業従事者であり、父もまた農業をしながら鉱山や建築現場で働いていました。同居していた祖父とは特に仲が良く、幼少期は祖父とよく川に出かけ川辺で寝たり魚を釣ったそうです。

初等教育が終了した頃、フランシアは母親にもう学費が払えないことを告げられます。叔母らと共に鉱山で働き何とか高校に入学できましたが、16歳で妊娠。子供の父親となる男性は妊娠の知らせを受け失踪してしまいました。ひとりで子供を育てると決めたフランシアは高校をやめ鉱山に働きに戻り、出産後も食べ物を買うお金を稼ぐためにすぐに鉱山に戻り働き続けたそうです。

その後18歳の頃にコロンビア第3の都市カリでメイドとして働きはじめ、そこで出会った男性と2人目の子供を妊娠します。しかしその子供を出産する頃には父親は他の女性と関係を持っており、フランシアはひとりで2人の子供を育てる決意をしました。彼女が20歳の時の出来事です。

コロンビアで24週までの人工妊娠中絶が合法になった時、自身の経験を語り「父親としての責任を放棄して逃げ出す事も中絶だ」と中絶手術をする女性だけが罰せられることに疑問を唱え中絶手術合法化に賛成の声をあげたフランシアは、フェミニストから多くの支持を集めています。

スクリーンショット 2022-03-28 午後9.40.55.png

©️YouTube - Francia Márquez Mina: "Colombia es un país pensado desde el neoliberalismo"

  

殺人予告を乗り越えて。数々の賞を受賞した環境活動家

幼少期に祖父とよく魚釣りに出かけた川に異変が起き始めたのは1998年頃でした。彼女が住んでいた地区に金採掘をする違法業者が出入りするようになったのです。

フランシアの周りには違法採掘のグループに加わってお金を稼ぐ人が増え、今までやっていた農業を辞める人が増えるようになりました。その結果、砂金から金を取り出すための水銀で川が汚染され魚は死に、人々の健康も脅かされるように。採掘の機械で川は穴だらけになり、金が取れなくなると違法業者は次の採掘場を求めて地区を後にしました。残されたのは汚染された川と、仕事がなくなってしまいドラッグに溺れる若者たち。フランシアが環境について意識し始めたのはこの頃です。

スクリーンショット 2022-03-28 午後9.26.58.png

オベハ川©️ YouTube - Francia Márquez: luchar contra la minería

フランシアが15歳の頃、彼女が暮らしていた地区を流れるオベハ川に水力発電機を設置するために、人工的に川を分裂させる計画が持ち上がりました。フランシアは仲間たちとその計画に反対を示す活動に参加し、その結果この水力発電機設置計画は中止となることが決定したのです。フランシアは当時を振り返り「アフリカ系の自分たちにもちゃんと権利があるのだと実感した瞬間だった」と語っています。奴隷の子孫と教え込まれてきたフランシア。幼い頃は黒人であることを恥じ無力を感じていたようですが、この出来事が彼女が活動家としての道を歩むきっかけとなったのです。

その後も環境活動家としてアフリカ系コミュニティを先導し、違法金採掘反対を訴える活動を中心に行なってきたフランシアですが2014年に様々な武装組織から殺人予告を受け、活動していた地区からカリに避難することを余儀なくされました。しかしフランシアはそこで諦めません。

殺人予告を受けてまもなく、彼女は「ターバンの行進(Marcha de los turbantes)」と呼ばれる大規模なデモ行進を行います。フランシアと同じアフリカ系の血を引く女性を中心とした130名のメンバーと共にカウカ県から首都ボゴタまでの560キロの道のりを歩き、カウカ川に広がる違法な金採掘について話し合いの場を設けるように政府に訴えたのです。勢いに押された政府側はそれを受け入れ、2016年にはオベハ川にあった違法採掘に使用されていた全ての重機を強制的に撤去しました。

スクリーンショット 2022-03-28 午後9.35.29.png

ターバンの行進©️You Tube - La Marcha de los Turbantes

このように殺人予告にも屈せず仲間を率いて活動を続けるフランシアはこの後様々な賞を受賞します。

まず、2015年にはコロンビアの人権擁護賞(Premio Nacional a la Defensa de los Derechos Humanos en Colombia)を受賞。2018年には環境分野のノーベル賞とも呼ばれる国際賞「ゴールドマン環境賞」を受賞します。更にBBCの2019年世界に影響を与えた『100人の女性』に選ばれるなど、世界からも評価を受け徐々に注目される活動家となっていきました。

スクリーンショット 2022-03-28 午後9.17.08.png

©️YouTube - Francia Márquez acceptance speech, 2018 Goldman Environmental Prize

  

リアルなコロンビアを生きてきた大統領候補に高まる期待

2020年8月フランシアは次期大統領選に出馬する意思を表明しました。政党に所属したことのないフランシアは「Soy porque Somos」という活動グループとして出馬をしようとしましたが、政党無所属の場合は一定数の署名を集めないと大統領候補として選挙に出ることはできません。フランシアは署名活動を始めましたが、「黒人」で「女性」で「政治経験のない」彼女は署名集めに苦戦し、無所属で出馬するために必要な署名を集めることができませんでした。しかし数ヶ月後、Polo Democrático Alternativo党からうちの党から出馬しないかと声がかかります。フランシアはその誘いを受け入れ、見事次期大統領候補として名を連ねることができたのです。

スクリーンショット 2022-03-28 午後9.57.33.png

©️YouTube - La cultura de Francia Márquez I Videos Semana

国に見捨てられた地域に生まれ、貧しい幼少時代を過ごしたフランシア。武装組織に故郷を追われ、人種差別もこれまでたくさん受けてきました。彼女の経験から語られる演説や、社会的弱者の立場に立って物申すディベートなど、大統領候補として世に出始めたフランシアはたちまちコロンビア中の注目を集める人物となり多くの支持を集めるようになります。

迎えた3月13日、上下院議員選挙と同時に大統領予備選挙が行われました。結果フランシアは78万票以上もの票を集め、元メデジン市長で大統領有力候補のひとりであるセルヒオ・ファハルドを抑え得票数第3位となったのです。同じ政党連合Pacto Historicoに所属するグスタボ・ペトロ氏が得票数1位となったため5月の大統領選に進むことは叶いませんでしたが、3月23日にペトロ氏が自身が大統領に当選した場合フランシアを副大統領にすると宣言したため、彼女の政治家への道にはまだ先があることが明らかになりました。

社会的弱者の声を代弁するフランシア・マルケス。コロンビアの闇を知っている彼女が副大統領になれば、今までのコロンビアの政治をひっくり返すような新しい風を吹かせてくれるのかもしれません。

グスタボ・ペトロ氏と抱き合うフランシア・マルケス

参考:

¿Quién es Francia Márquez? Esta fue la entrevista que le dio a BOCAS

Francia Márquez, la mujer que puso en jaque a la minería ilegal y a las represas en Colombia y acaba de ganar el premio Goldman

enciclopedia Francia Marquez

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ