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England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

マーマレードは春の予感

 この季節には、各地のマーマレード・コンテストの募集も始まる。中でも人気が高いのが世界のマーマレード好きが集うダルメイン世界マーマレード・アワーズ&フェスティバルだ。美しい庭園でもよく知られるダルメインの大邸宅は、水と緑の豊かな湖水地方にある。このコンテストには3000件を超える応募があるそうで、日本の方や団体が入賞したという話もよく聞く。ちょっと調べてみたら、2018年からはなんと日本大会も始まっていた。日本の方もマーマレードが好きなんですねぇ。このコンテストに入賞すると、スポンサーでもあるロンドンの高級食料品店、フォートナム&メイソンからマーマレードを発売するチャンスもあるそうで、熱が入るのもわかる気がする。

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そのフォートナム&メイソンのマーマレードを売る棚。念のため確認したけれど、ここに写っているものすべてが(ジャムではなくて)マーマレードだった。手作りと同じように色も材料もさまざまで、味は同じでピールの厚みだけ違うものもあった。棚を見ているだけでぽわんと夢が広がった。筆者撮影

 これまでマーマレードは味見専門だったけれど、今年はなぜか気分が乗って、夫が作るところを見せてもらった。レモンを絞ったり皮を刻んだりするくらいは手伝ったので、最後に簡単に紹介してみよう。

 まずはオレンジを丸ごと茹でる。粗熱がとれたところで二つに切り、果肉を取り出して種をとり、皮を刻む。と書くと簡単だけれど、ここがいちばん時間がかかるところだ。オレンジの茹で時間は1時間半から2時間。手で触れるくらいに冷めるのに30分くらい待つことになる。種をとり出す作業には根気も必要だった。

 これに水とレモン汁を加えて火にかけて沸騰させ、さらに砂糖を加えて、焦げ付かないようにかき回しながら煮詰めていく。火を入れる時間は全体で30分くらい。入れる砂糖の量がおびただしくてぎょっとした(オレンジとグレープフルーツ合計7個に対して2キロ!)(追記:すみません、夫が間違えていて1キロだったそうです。それにしても多いけれど!)。でも、保存食にするためは大量の砂糖が必要で、適当に減らすとうまく固まらない。しかたないな、甘くおいしくなるのなら。ふふふ。甘い香りが広がるキッチンで、できあがったマーマレードを想像しながら鍋の中身が少しずつ飴色になっていくのを見守った。

 ところが! 沸騰したマーマレードを105度に保って15分煮る最後の工程では、鍋の中に泡がぼこぼこ激しく立って、熱いマーマレード液が勢いよく飛び散るではないか。それでも焦げつかないように、ふたをせずにへらでかき混ぜ続けなければならない。こわい! マーマレード作りは意外と大変なのだった。

筆者のインスタグラム投稿より、今年2度目のわが家のマーマレード作り。上で説明した工程を写真と動画でどうぞ。今回はカクテルのネグローニ風味にするため、セヴィル・オレンジにグレープフルーツを混ぜ、煮詰めたマーマレード液に最後にジン、カンパリ、ベルモットを加えた。ふむ、なかなかよい感じだ。

 できあがったマーマレードは、あらかじめオーブンで消毒しておいたガラスの瓶に詰める。全体が冷めてからの固まり具合がそのマーマレードの本当の仕上がりだ。これを熱いうちに確認する方法もあるようなのに、夫はなぜかそれはしないで、瓶に詰めたマーマレードをたまに振ったりしながら、温度が下がるのを待っている。IHコンロだと温度が高くなりきらずゼリーが固まらない、といつも不満をもらすくせに、変なところでギャンブルしている。今回も思ったように固まらず、鍋に全部あけて煮直していた。

 マーマレードを詰める瓶は専用に買ったものもあるけれど、最近では空き瓶を取っておくことが多く、友人が「マーマレードに使って」と寄付してくれることも増えてきた。それに、家族や友人におすそ分けをすると、かなりの確率で瓶が戻ってくる。「再利用してね」と同じくらい、「またお願い」というメッセージを感じるのは気のせいかな。

 1月はマーマレード作りの季節だ。クリスマスや新年のイベントが終わってしまったちょっとさびしいこの時期、キッチンから漂う甘い香りにはなんとも言えない幸せを感じる。まだまだ寒いけれど、オレンジのさわやかさが、そう遠くないはずの春も思い出させてくれる。

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マーマレード好きと言えば、くまのパディントン。日本でもおなじみのキャラクターだ。写真は2022年に撮影したパディントン駅のパディントン像。足元に誰かが小さなマーマレードの瓶を「おそなえ」していることにご注目。「暗黒の地ペルー」からやってきたパディントンは英国人ではないけれど、本や映画の『くまのパディントン』シリーズでは彼を通じて英国文化がたっぷり紹介されている。昨年の故エリザベス女王の即位70年のときには女王のお茶会に呼ばれた動画を披露したパディントン。彼が女王に差し出したのも、そして女王がハンドバッグから取り出したのも、マーマレード・サンドイッチだった。筆者撮影
 

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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