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ラッシャー貴子|イギリス

人気が高まる女子サッカーをスタジアムで初観戦

 当日はどこかで腹ごしらえをしてスタジアムに向かうつもりでいたけれど、近くのカフェはいつの間にか予約でいっぱいになっていた。日曜のブランチは人気の時間帯とはいえ、サッカーの試合がある日は、エリア全体が想像以上に混むようだ。

 そこでスタジアム内のスポーツバーを予約してみた。入り口で予約を確認していた、目つきの鋭い黒人の店員さんの横をこわごわ通り抜けると、店内はチェルシーのシャツやマフラーを身につけたお客さんでにぎわっていた。壁いっぱいに埋め込まれたスクリーンからずっとスポーツ中継が流れる中、ビールやピザやハンバーガーを前に、みんないそいそ、うきうき。試合を楽しみにしている気持ちがびんびんと伝わってきた。隣に座っていたかなり年配のおばさまがお会計で取り出した財布には、「チェルシー・フットボールクラブ」のステッカーが燦然と輝いていた。

初観戦シェッド - 1.jpeg

スポーツバーを出てすぐに目に入ったのが歴史あるシェッド・ウォールだ。今のスタジアムの敷地には以前、1877年建設の競技場が立っていた(チェルシー・フットボールクラブの創立は1905年)。シェッド・ウォールはその競技場の壁が残されたもので、地下鉄ピカデリー線を建設する資材などの上に建てられたのでシェッド(物置き)という名がついたようだ。こちら側のバックスタンドは、そのまま「シェッド」と呼ばれて、チェルシーのサポーターが陣取ることが伝統になっている。この日はわが家もシェッド・スタンドのチケットを取ってみた。この壁には現在、チェルシーの伝説のプレーヤーたちの写真が展示されている。上に飾られたリボンのレインボー色はLGBTQ+のシンボル。筆者撮影

 スタジアムに入る前に公式グッズの売店をのぞこうとして、長い行列にびっくり。店内に入りきれずに、外で100人ぐらい待っていたのだ。ガラス越しにちらりと見えた店内も、もちろん大混雑。人混みにもファンの熱気にもあてられて、わたしたちは列に加わるのをあきらめた。買ってもらったばかりの旗を嬉しそうに振るどこかの幼い兄弟を見ることができたので、よしとしよう。

 さて、いよいよスタジアムに入った。チェルシーのサポーターが座る、シェッド・スタンドだ。まだ試合開始まで1時間近くあるのに、すでに売店の周りに人が集まっていた。食べものはパイやホットドッグ、ソーセージロール(パイ生地でソーセージを巻いたもの)、飲みものはビール、ワイン、コーヒーなど。大混雑のハーフタイムには、自動販売機で前売り券を買って店で受け取る効率のいいシステムに変わっていた。ちなみにアルコールを持って席につくのは禁止だったけれど、持参した食べものを持ち込むことはできるようだった。

初観戦sen - 1.jpeg

試合の数日前、トリビアを言いたい夫(北イングランド出身)が、「サッカーの試合ではパイを食べるもんだ。でもそれは北の習慣だから、チェルシーにはないのかもしれない」と言い出したので、スタジアムで何か買って食べたい気持ちを抑えてスポーツバーに行くことにした。けれど、スタンフォード・ブリッジにもやはりパイはあった! 「チキン・バルティ・パイ」ということは、カレー味のチキンパイだ。手のひらに乗るくらいの大きさ。これを食べてサッカー観戦気分に浸りたかったな、残念。よく調べなかった自分を反省しつつ、「夫の言うこと=英国」ではないから自分で考えなければ、と改めて肝に銘じた。筆者撮影

 キックオフ30分前に席につくと、威勢のいい音楽が流れる中、ピッチでは両チームの選手がすでにウォーミングアップをしていた。その途中で選手紹介があって各選手の名前と写真が大型スクリーンに写し出されたのだけど、チェルシーの選手にはひとりひとりに大きな拍手が巻き起こったのに、相手チームに対しては、少なくともわたしの周りで手を叩いた人はゼロ。さすがチェルシーサポーターの席、試合前からものすごい対抗意識だ。

 走り回っていた選手がいったん引き上げると、大きな機材やチェルシーの旗がピッチに持ち込まれた。ふたたび音楽が鳴り響くと改めて選手が入場、そしてなんと、青々とした芝生から炎があがった!

初観戦 - 4.jpeg

選手登場を盛り上げた炎。同時にクラブの名が書かれた大きな旗がいくつもふられて、思いのほか興奮してしまった(われながら単純だ)。選手登場にはいつも同じ曲がかかるようで、周りのサポーターたちは当たり前のように決まったところで決まった掛け声をかけて手を叩いていた。取り残されたさみしさはこちらに少しあったものの、だからと言って声を出さないわたしたちが周りに白い目で見られることはなく、わりと放っておいてくれた(相手チームを応援しない限り、たぶん)。筆者撮影

 プロレスばりの派手な演出にも度肝を抜かれたが、この時に名前が呼ばれたのはチェルシーの選手だけだったことにも驚いた。トッテナムの紹介をしないなんて不公平じゃない? この国は「フェア(公平)」なことを重視すると思っていたのに。周りのサポーターに聞こえないようにぶつぶつ言っていると、夫が横から、「相手チームにブーイングするだけだからじゃない?」と返してきた。本当かどうかはわからないけれど、なんとなくサッカーファンらしくも思える。ひいきのチーム一筋なのだ。

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著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

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