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タックス・法律の視点から見る今のアメリカ

秦 正彦(Max Hata)|アメリカ

アメリカの最高裁判事

DCの連邦最高裁判所。上院は大統領が指名する最高裁判所を含む連邦裁判官をConfirmするという重要な役割を担う。アメリカの長期的な展望を考える際、上院の選挙結果は最重要、って以前書いたけど、選挙を待たずに重要性を再確認する事態に。(写真 Credit: emicristea)

前回、実は上院選挙がキーって書いたけど・・・

一か月前の9月3日に「大統領選より重要(?)な上院選」っていうポスティングで、大統領選挙に目が行きがちだけど、アメリカの長期的な展望を考える際、上院の行方が重要っていう点に触れた。その時も書いたけど、その理由のひとつは、大統領が指名する最高裁判所を含む連邦裁判官をConfirmするっていう上院に与えられた重要な役割。大統領が指名して、それをConfirmする訳だから、大統領府と上院が同じ党だと判事の任命が格段に容易になる。逆にここが捻じれてると指名する側と上院が一枚岩じゃないんで一筋縄にはいかない。

で、9月3日のポスティング時点では、11月3日の選挙でどちらが大統領府を制するにしても、同時に上院を押さえないことには、2021年以降も立法はもちろんのこと、裁判所の判事の任命も思うようにいかない、っていう少し先の話しをしてるつもりだった。

上院の重要性をReal Timeで再認識

この論点はもちろん今回の選挙に限ったことではない。いつだって大統領府と上院がシンクしていればその党は強い。2016年から2018年までは共和党が大統領府と上院ばかりでなく、下院でも多数だった。だからクロスボーダー課税の世界ではGame Changer的な2017年税制改正が可能だった。2017年の税制改正はおそらくトランプ政権による法制度面での一番の成果だろう。2018年の中間選挙で下院は民主党多数になってるので、現時点では、大統領府と上院の2つが共和党っていう布陣。

そんな矢先の9月18日、9人で構成される最高裁判事の一人で、体調不良が伝えられていたRuth Bader Ginsburg(「RBG」)が他界してしまった。連邦最高裁判事と言えば弁護士の頂点で、どれだけアメリカ社会に影響を与える存在かはアメリカでしばらく暮らしていれば実感できるだろう。

RBGの旦那さまはM&Aタックスの巨匠

RBGは最高裁判事だから法曹界では泣く子も黙る存在だけど、実は、M&A・組織再編やクロスボーダーのストラクチャリングとかにかかわるタックス・アドバイスを提供している僕たちにとっては、RBGの旦那さまの方にも馴染みが深い。Martin D. Ginsburgは 著名なTax Lawyerで、複雑なM&A分野にかかわる連邦法人税の取り扱いに造詣が深い。Jack S. LevinとDonald E. Rocapとの共著「Mergers, Acquisitions, and Buyouts」はこの分野ではバイブル的な存在だ。今ではオンラインで閲覧するのが普通だけど、僕たちが駆け出しの頃は、FirmのLibraryにある真っ赤な表紙の5冊の分厚い本を取り合いして読んだものだ。Tax-Free Reorganization、課税M&A、スピンオフ、LBO等の広範なトピックにかかわる取り扱いが手際よくまとめられていた。Martin D. Ginsburgも既に他界しているけど、昨年10月にNYCで開催された法曹界の集まりでDonald E. RocapがLBOの講演をしていてライブで見る機会に恵まれた。WachtellのLawyerとの協働プレゼンで迫力満点。なかなか面白かった。

最高裁判事の欠員

RBGの他界に伴い、終身任期の最高裁判所の判事が一人欠員となり、補充の必要が生じる。これが、この前から言っている大統領府と上院がキーとなる状況。これは憲法上の規定だから改憲しない限り、絶対的なパワー。憲法で大統領権限を規定している第II条の中のSection 2のClause 2だ。2-2-2だから覚えておいてね。「He shall have power, by and with the advice and consent of the Senate...」ってやつ。「Shall」って言うのは法律でオプションはない「Must」ってこと。

ACB指名

憲法上の当権限に基づき、トランプ大統領はAmy Coney Barrett(「ACB」)を指名。この後、上院司法委員会 (Senate Judiciary Committee)のヒアリングを得て、上院のConfirmation手続きに入る。オバマ政権最終年度にもAntonin Scaliaが他界した例があるけど、その際は大統領府は民主党、上院は共和党で捻じれ状態だったので、スピーディーなConfirmationは期待できず、結局指名されたGarlandのConfirmationヒアリングには至らなかった経緯がある。今回は双方を同じ党が制していることから事情が異なる。

最高裁判事を取り巻く党派ポリティクス

最高裁判事は、大統領に指名され、その後上院でConfirmされるので、当然、どちらの党に任命されていることになり、どうしても各判事には党派の色が付きまとう。トランプ大統領が「あいつはオバマ判事」とか心無い発言をして判事たちの顰蹙を買ったりする。ただ、だからと言って一方の党に指名された判事が、その後もその党派が好むポリシーを支持するとは限らないし、そもそも司法府はポリシーメーカーではない。最高裁は立法府のポリシーが賢明かどうかをチェックするところではなく、連邦、州が可決する法律、大統領府等の行政府の行動、等が憲法で認められた権限を逸脱していないかどうかをチェックするところ。

国や州のポリシーは、司法府の裁判所ではなく市民から選挙で選ばれた連邦または州の議員が立法府=議会で策定するもの。でないと、いくら賢者とはいえ、9人の多数決5人で国のポリシーを策定できるという恐ろしい結果になるからだ。ポリシーを策定する者と、ポリシーの内容ではなく策定が憲法で与えられた権限を逸脱していないかを確認する者、が分かれてるっていうのは、アメリカの三権分立の大基本だし、憲法が与えてくれた貴重なストラクチャーなんだけど、アメリカでもその区分や重要性が良く理解されてないと感じることが多い。憲法を中立に適用するのが最高裁判事のDutyで、判事たちは個人の思想に基づいて立法府や行政府の行動が好ましいかどうかを見ることはない。でも、多くのハイプロファイルケースは5対4で決まってるじゃん、って言うかもしれないけど、意見が割れる理由は「どのように憲法を解釈するか」という点で、ポリシーそのものが賢いかどうかとか、ポリシーに判事が個人として賛成できるか、とかの観点に基づくものではない。でも私情が入るのでは、って思うかもしれないけど、連邦判事、特に最高裁判事にまで登り詰めるような格の異なる人たちは判事の責務は十分に理解した上で各ケースに対応しているはず。

この点アメリカの民主主義や自由にかかわる最重要ポイントなんだけど、メインストリーム・メディアの報道だけ読んでると最高裁の機能が正確に伝わらないことが多い。最高裁判事がどれだけ党派や自分の思想とは関係なく、憲法に忠実に職務を全うしようとしているかを考えると報道のされ方には少し気の毒な感がある。Law Schoolとか行ってCon Law(憲法論)好きだった人はメディアの報道読んでも、判決の意味するところがきちんと理解できるはずだけど、そうでない人にも最高裁が何をしようとしているのか、正確に伝えて欲しい。例えば、たまたま最高裁の判決結果が死刑を規定する州法を肯定する、すなわち憲法違反ではない、と判断しているものだとすると、「最高裁、死刑を容認」というようなヘッドラインで、あたかも最高裁判事がポリシーマターとして死刑に賛成しているかのように報道する。最高裁は死刑がいいとか悪いとかのポリシーを論じるところではなく、それは市民、すなわち「People」、に選ばれた議員が決める仕事。世界でも珍しく、三権分立が形だけでなく実際に機能しているアメリカ民主主義の基本「ストラクチャー」だから、大切にしないといけないんで、次回はもう少しこの点にフォーカスしてみたい。固い話しでゴメン。だけど、自由の恩典を享受できる有難い身にある自分を含む米国市民・居住者として、その源泉であるアメリカ憲法の大切さは理解し、そして守っていかないとね。

 

Profile

著者プロフィール
秦 正彦(Max Hata)

東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html

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