コラム

大学入学試験SATの「替え玉受験」も暴露 臨床心理学者のトランプ姪が暴く一家の秘密

2020年07月16日(木)12時00分

それにしても驚くのは、トランプ一家の徹底した「しみったれ」ぶりだ。大金があるというのに、フレッドは自分の所持する安作りの不動産に長男家族を住まわせ、壁が壊れて外から冷たい風が吹き込んで長男が肺炎を起こしていても修理すら許さない。おまけに、トランプ家ではクリスマスプレゼントに他人からのプレゼントを再利用するのが当たり前になっていたようだ。そのうえ「家族愛よりもカネ」という価値観が徹底している。

こういうエピソードの数々を読んでいると、「大金持ちに生まれつくのは必ずしも幸福ではない」と思わされる。

アメリカの有権者が暴露を期待していたトランプの税金詐称の証拠だが、これはドナルドを含むフレディの兄弟姉妹がメアリーと弟を遺産から切り捨てようと試みたことが発端になっている。ニューヨーク・タイムズ紙の2018年のスクープ記事の証拠になる書類を提供したのがメアリーだということがこの本で明らかになるのだが、記者のSusanne Craigが突然メアリーの家に現れたときには「not cool(そういうのやるべきじゃないでしょ)」と追い払ったらしい。それが、最終的にあのスクープ記事になったのだから、NYTの記者のあきらめない情熱と掘り下げる能力に脱帽した。記者というのは一種の探偵なのだと思わされた。

トランプ一家の歴史は、まるでシドニー・シェルダンのようなページターナーでもある。シドニー・シェルダンだとしたら、この次は復讐劇の完結編だろう。それを待っている。


『Too Much and Never Enough』
Mary L. Trump

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

【話題の記事】
・東京都、14日の新型コロナ新規感染143人 感染最少の5月23日以降累計3000人突破
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story