コラム

アメリカを対テロ戦争に導いた、ブッシュ元大統領の贖罪とは

2017年04月03日(月)14時40分

リベラル派にはブッシュ元大統領のことを嫌いな人が多いが Carlo Allegri-REUTERS

<同時多発テロ後のアメリカを対テロ戦争へと先導したブッシュ元大統領。最近出版された自著の画集からは、戦争で負傷した兵士への深い贖罪の意識が感じられる>

筆者が住んでいるマサチューセッツ州は「アメリカで最もリベラルな州」として知られている。それゆえに、ジョージ・W・ブッシュ元大統領への反感は強い。

ブッシュは、高所得者優遇の減税で国民の収入格差を広げ、同時多発テロ後の国民感情を利用してネオコン(新右翼)のアジェンダを推し進め、アフガニスタン戦争とイラク戦争を開始し、クリントン政権が黒字にした財政を大幅な赤字にして、経済成長を遅らせ、金融危機を招いたからだ。

ところが最近になって、ブッシュを毛嫌いしていた人たちが、「ブッシュがそう悪人に思えなくなってきた」「懐かしさすら感じる」と言い出した。アンチ移民、アンチ環境保護、アンチ芸術、アンチ科学などの政策を押し進め、根拠がない噂を真実と主張し、自分に都合が悪い情報を載せるメディアを「偽ニュースメディア」と呼ぶトランプ大統領と比べたら、ブッシュは極めてまっとうな人物に見える。

ホワイトハウスを離れてからのブッシュの言動も尊敬できるものだ。

自分と異なる理念を持つ(と推測できる)バラク・オバマ前大統領の在任中、ブッシュは一度として公の場でオバマの批判をしなかった。テレビや講演などでオバマ批判を繰り返したディック・チェイニー元副大統領とは対称的に、ブッシュは沈黙を貫いた。「アメリカ大統領」という地位を重視し、尊重しているのだろう。

【参考記事】イバンカ政権入りでホワイトハウスがトランプ家に乗っ取られる

引退後のブッシュの変貌

そんなブッシュが初めて公の場で現役大統領を批判した。同じ共和党のトランプだ。証拠もなく「自分のコミュニケーションを盗聴した」と前任者のオバマを糾弾するトランプが、「アメリカ大統領」の尊厳を破壊しているからかもしれない。

CNNやニューヨーク・タイムズなどの大手メディアを「偽ニュースメディア」で「アメリカ国民の敵」と呼ぶトランプに対して、テレビで質問を受けたブッシュはこう答えた。

「私は、民主主義にとってメディアは不可欠なものとみなしている」「私のような者の責任を問うためにも、メディアは必要だ。権力というものは、とても依存性があり、腐敗しがちなものだ。だからメディアが権力を濫用する者に責任を取らせるのは非常に重要なのだ。ここであれ、別の場所であれ」

現役時代のブッシュからは想像できない発言だ。

引退してから始めた彼の趣味も、この変貌に影響を与えているのかもしれない。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアとウクライナ、新年の攻撃に非難応酬 ヘルソン

ワールド

スイスのバー火災、約40人死亡・100人超負傷 身

ワールド

石油タンカー追跡、ロシアが米に中止を正式要請 米紙

ワールド

ロシア、ウクライナ攻撃の証拠を米に提供 プーチン氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 10
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story