コラム

白人が作った「自由と平等の国」で黒人として生きるということ

2015年11月11日(水)17時05分

「国民の自由と平等」を掲げるアメリカだが、建国時にはこの「平等な国民」に黒人奴隷や女性は含まれていなかった。それに、アメリカの初期の富は、 黒人奴隷を所有物として消費することで産みだされたものだ。「美しい芝生がある家や隣人との和やかな交流」というアメリカらしさも、その歴史の上に積み上げられたものであり、アメリカの歴史は、「国民の平等」といったイノセントな嘘をいくつも夢に書きかえてきた。

 アメリカは国民を平等に扱うはずだ。そして、国民を守る神聖な誓いをしているのが警察官だ。

 それなのに、おもちゃの銃を持っていただけの12歳の少年、武器を持っていなかった18歳の少年、路上でタバコをバラ売りしていた43歳の男性が、黒人というだけでいとも簡単に警察官に殺されている。(ニュースサイトBuzzFeedにも最近の例が載っている)。黒人は、少しでも疑いがある行動をしたり、言い返したりしたら、肉体を破壊される可能性があるのだ。

 だから黒人の親はわが子に、「おもちゃでも銃を持ってはいけない。フード付きのジャケットは着てはならない。警官にどんなに侮辱されても言い返してはいけない」と教えなければならない。黒人の大統領がいても、それがアメリカの現実なのだ。

 何の罪もない18歳の黒人青年マイケル・ブラウンを殺した警官が無実になった日、アメリカの正義を信じられる恵まれた環境で育ったCoatesの息子は、その「夢」を失い、自分の部屋にこもって泣いた。

 それに胸を痛めながらも、父は息子の肩を抱いて「大丈夫だ。心配するな」と慰めはしなかった。

 なぜなら、彼自身が一度として「大丈夫だ」と信じたことがなかったからだ。

 Coatesの父親はかつて息子にこう語った。
「that this is your county, that this is your world, that this is your body, and you must find some way to live within the all of it.(これがおまえの国で、これがおまえの生きる社会で、これがおまえの身体だ。このすべての中で生きる方法をなんとかして探すんだよ)」

 そして父になったCoatesは息子にこう語る。
「the question of how one should live within a black body, within a country lost in the Dream, is the question of my life, and the pursuit of this question, I have found, ultimately answers itself.(夢に没頭している国で、黒人の肉体を持っていかに生きるべきか、という問いは、私の人生そのものへの問いかけであり、それを追求すること が、最終的には答えになるとわかった)」

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

COP30が閉幕、災害対策資金3倍に 脱化石燃料に

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story