コラム

イスラム国(ISIS)再生の条件――アサド後シリアに広がる混乱の連鎖

2025年10月06日(月)14時04分

これらの攻撃は、従来の活動範囲を超えて広がっている。シリア南部や政府支配地域への浸透が目立ち、ISISの情報収集力と機動性の向上を示唆する。プロパガンダ面でも活発で、オンライン媒体を通じて新政権を「背教者」と非難し、軍から脱走を兵士らに呼びかけている。

特に、HTS指導者のアフマド・アル・シャラを「イスラエル工作員」と中傷するキャンペーンは、シリア国内の陰謀論を煽り、政権の正当性を揺るがせている。イスラエルによるシリア領内への空爆が頻発する中、こうしたプロパガンダはISISの支持者を増やす効果を狙っている。

シリア国内の脆弱性とISISの戦略


シリアの現状は、ISISの再生にとって好条件と言えよう。宗派間の緊張が高まっており、スンニ派とアラウィ派、ドルーズ派の衝突が頻発する。ラタキア港周辺やダマスカス南部での暴動がISISの攻撃を誘発し、さらなる混乱を招いている。

新政権は少数民族の保護を公約しているが、資源不足と統治力の弱さから対応が追いつかない。結果として、ISISは「政府の無能」を宣伝し、若者や不満分子をリクルートしている。

2025年5月には、シリア南部で政府軍車両を狙った爆破事件が発生し、7人の死者を出した。これに続き、米国支援の自由シリア軍(FSA)に対する攻撃も確認された。これらの事件は、ISISが単なる散発的なテロではなく、組織的なキャンペーンを展開し、国際的な注目を集め、資金や戦闘員を集めようとしていることを想像させる。

米軍撤退の影響と国際対応の課題

ISISの脅威を抑えてきた最大の要因は、米国主導の地元武装勢力への支援だ。2014年以来、約2,000人の米軍がシリアに駐留し、クルド人主体のシリア民主軍(SDF)と連携してISIS掃討作戦を進めてきた。情報共有、偵察、訓練支援が功を奏し、ISISの勢力を大幅に削いだ。

しかし、トランプ政権は2025年4月にシリアからの段階的撤退を発表し、年末までに1,400人に削減する計画だ。2026年9月までにイラク・シリアからの完全撤退を目指す方針で、基地の統廃合も進んでいる。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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