コラム

対テロ優先から対中優先へ――9.11から読み解く米中関係の転換

2025年09月11日(木)14時11分
対テロ優先から対中優先へ――9.11から読み解く米中関係の転換

Hamara -shutterstock-

<9.11から四半世紀近くが経過したいま、米中関係を読み解く上で、対テロをめぐる一時的な協力の成立とその崩壊は、どのような教訓を残しているのか――>

ブッシュ政権は中国を競争相手と位置付けていたが、それは9.11テロという1日の出来事を背景に一変した。ブッシュ政権は対テロに即時舵を切り、中国との協力を優先させた。

2001年9月11日、米国で起きた同時多発テロ事件(以下、9.11)は、国際政治の風景を一変させた。この事件は、アルカイダによるニューヨークの世界貿易センタービルやワシントンのペンタゴンへの攻撃として、約3000人の犠牲者を出し、テロリズムをグローバルな脅威として浮上させた。

米国はこれを機に「テロとの戦い」を国家戦略の中心に据え、国際社会に協力を呼びかけた。このような文脈で、9.11は特に米国と中国の関係に劇的な影響を与えた。それまでブッシュ政権下で高まっていた緊張が、テロ対策という共通の課題を通じて一時的に緩和され、協力的なムードが生まれたのである。

ブッシュ政権初期の対中強硬姿勢

ジョージ・W・ブッシュ大統領が2001年1月に就任した際、米中関係はすでに冷え込みの兆しを見せていた。クリントン政権時代に掲げられた「戦略的パートナーシップ」とは対照的に、ブッシュ政権は中国を「戦略的競争相手」と位置づけ、警戒を強めていた。

この姿勢の背景には、冷戦終結後の米国の覇権を維持するための戦略があった。中国の経済急成長と軍事力の拡大が、米国主導の国際秩序に挑戦を投げかけていると見なされていた。

具体的な出来事として、2001年4月の海南島事件が象徴的である。米軍のEP-3偵察機が中国の戦闘機と空中衝突し、中国領内に緊急着陸を余儀なくされたこの事件は、両国間の不信を深めた。米国は中国の行動を「攻撃的」と非難し、中国側は米軍の領空侵犯を問題視した。

結果として、外交的な摩擦が激化し、米中間の信頼関係は損なわれた。また、ブッシュ政権は台湾への武器売却を拡大し、日本やオーストラリアとの同盟を強化することで、アジア太平洋地域での中国包囲網を構築しようとした。

選挙戦中からブッシュ大統領が中国を「パートナーではなく競争相手」と公言していたように、対中政策は硬化の一途をたどっていた。この時期、米中関係は対立の色を濃くしていた。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

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