コラム

「お疲れさまでした」1人の中国人から、安倍前首相へ

2020年09月30日(水)11時55分
周 来友(しゅう・らいゆう)

STOYAN NENOV-REUTERS

<安倍さんは本当によくやったと思う。国益のために働き、全方位外交をした。カッコよくないパフォーマンスやエピソードもたくさんあったが、それがむしろ中国では受け、好意的な反応が多かった>

これまでこのコラムに書いたことに対し、さまざまな意見を頂戴してきた。ただ、私個人というより「中国人」に向けたものが多かったように思う。改めて言明しておきたいのだが、コラムの内容はあくまで私個人の見解であり、中国政府を代表するものでも(当たり前だ)、中国人全体の一般的見解でもない。だから今回も、個人の見解です。安倍さん、お疲れさまでした。

個人的に、安倍晋三前首相は本当によくやったと思う。国のトップとして、私利私欲のためではなく、国益のために働いた。経済面では対中関係を重視し、結果的に日中関係も改善した。トランプやプーチンにぺこぺこと頭を下げながらも、バランスを取りつつ全方位外交をしたと言っていいだろう(韓国との関係はともかく)。

安倍さんの辞任で一番感動したのは、会見で「国民の皆さまに心よりおわびを申し上げます」と謝罪したことだ。任期途中であり、またコロナ禍の最中の辞任だからということだが、政治家が国民に謝るなんて中国ではあり得ない。そういう意味でも、安倍さんは優れた政治家であると思う。

実はこうした考えを持っているのは、私だけではない。冒頭で「個人の見解」と書いたが、多くの中国人が安倍さんをおおむね肯定的に評価しているのだ。辞任のニュースが流れると、中国のSNSには「中国にはいない立派な政治家」「自分のイメージを度外視して、国のために働いた」といった声が次々と上がった。

「イメージを度外視」という表現については、少し説明が必要かもしれない。2016年のリオデジャネイロ五輪の閉会式に安倍さんがスーパーマリオのコスプレ姿で登場したことは、覚えている人も多いだろう。ああしたパフォーマンスはある意味滑稽だ。政治家としては、決してカッコよくはない。だが当時、「国のために、あんなカッコ悪いことまでして!」と、中国ではものすごく評判がよかったのである。

2017年にはトランプとのゴルフ外交中、安倍さんがバンカーに転げ落ちたこともあった。また2015年には、プーチンとの会談に遅れた安倍さんが、小走りでプーチンに駆け寄った──満面の笑みで。どれもこれも、カッコいいエピソードではない。ところが中国ではその必死さが受け、好意的な反応が多かったのだ。小走りの動画までネットに出回ったくらいである。あるいは、いつも仏頂面の自国のリーダーを暗に揶揄したのかもしれない。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story