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ブレグジットから10年...「主権を取り戻す」というスローガンに敗れた「欧州の理想」は消えたのか?

2025年12月30日(火)19時40分
レア・イピ (ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授・政治理論)

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「世界市民的連邦」を構想したカント DE AGOSTINI/GETTY IMAGES

しかし、カントは難しさを感じた。人間は常に合理的に行動するとは限らず、自由意思を持つため理性に従わないこともあるからだ。

逆説的だが、カントは戦争自体の不合理さがかえって希望をもたらすと考えた。戦争はやがて破壊的で不確実なものとなるばかりか、経済的にも維持不能となり、果てしない債務と破滅をもたらす。

国際貿易の拡大で、各国の利害対立の緊張が高まるにつれ、「一国の動揺が他の全ての国に及ぼす影響はあまりに大きくなる」。その結果、新たな政治的構成が生まれざるを得ないとカントは予見した。それは、今まで世界が例を示したことのないような「世界市民的連邦」である。

そして世界は不完全ながら、その実例をついに生み出した。カントはこう予言していた。「多くの破壊と逆境、力の完全な消耗を経て」、自然の摂理は「理性が多くの悲しい経験なしでも示し得たであろう境地に人間を向かわせるだろう」と。

この予言は、イタリアのベントテーネ収容所で実現したかに見えた。独裁者ムソリーニが反対派を幽閉した悪夢のようなこの場所で、政治哲学者のアルティエロ・スピネッリとエルネスト・ロッシは「ベントテーネ宣言」(1941年)をもって欧州連邦構想を提唱。諸国家は征服ではなく、協力によって互いに結び付けられると主張した。

同宣言は後に欧州石炭鉄鋼共同体の理論的基礎となり、共通の経済的利益を道徳的・政治的プロジェクトへと転換しようとする歴史上類を見ない試み──EUとなって結実した。

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