【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
大人の支援が必要な子どもがたくさんいる現実を知った
後日、事務室にいると、女性職員たちの会話が聞こえてきた。
「最近、女子生徒がなんか可愛くなったと思っていたら、赤いマフラーしているんですね」
「そう。前髪をピン留めする子もいて、可愛くていいですよね」
心がふわっと軽くなり、頬が自然とゆるんだ。(138ページより)
教師という仕事の過酷さは知られたところだ。もしかしたら、無意識のうちに生徒を管理という名目で縛ろうとしてしまうことにも、教師の余裕のなさが影響しているのかもしれない(もちろん、仮定の話に過ぎないが)。
だが、そんな状況下だからこそ、著者のような視野を持った人が必要ではないだろうか。
私は2年間の校長生活でさまざまな現実を知ってしまった。家庭不和が原因で何度もリストカットする生徒、アルバイトで稼いだ進学資金を親に使い込まれた生徒、両親の離婚にともなう引っ越しで3年の3学期に泣きながら退学した生徒......大人の支援が必要な子どもがたくさんいた。(202〜203ページより)
そんな子どもたちと関わっていけないかと考えた著者は、スクールソーシャルワーカーになることを思いつく。そのためには社会福祉士か精神保健福祉士の資格が必要なので、定年まで3年を残したところで通信制の専門学校に入学して勉強を開始する。
高校を退任したあとは県議会事務局に異動となるが、その仕事と並行して勉強を続け、社会福祉士の資格を得たのだそうだ。
そして社会福祉士会から「保佐人」の仕事を持ちかけられ、60歳で県庁を退職したあとは、ある団体で働きながら、法人後見人から委任を受けたかたちで発達障害を抱えた青年の「保佐人」を始めたのだという。
高校での2年間の「異世界生活」によって、新たな人生がスタートしたということなのだろう。

『素人校長ばたばた日記――県庁職員、教員免許なし、いきなり異動命じられました』
川田公長・著
五館シンシャ/フォレスト出版
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。他に、ライフハッカー[日本版]、東洋経済オンライン、サライ.jpなどで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』( 辰巳出版)など著作多数。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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