最新記事
メディア

【公共放送】NHKとは「決定的な違い」が...トランプ演説「改ざん」疑惑で揺れるBBCに「足りないもの」とは?

The BBC’s Trust Issue

2025年11月18日(火)18時47分
スティーブン・デービッド・ピカリング(英ブルネル大学国際関係学名誉教授)
イギリス・ロンドンにあるBBC本社

ロンドンのBBC本部 TAYFUN SALCIーZUMA PRESS WIREーREUTERS

<トップ辞任では終わらない。目を向けるべきは、イギリス政治の構造変化と、「公共放送は誰のものか」という正統性の問題だ>

英公共放送BBCが11月9日、ティム・デイビー会長とニュース部門のデボラ・ターネスCEO(最高経営責任者)の辞任を発表した。政治的偏向だとの非難を受けての決定だ。

なかでも問題視されたのは、調査報道番組『パノラマ』が、2021年1月に起きた米連邦議会議事堂襲撃事件に関して、ドナルド・トランプ米大統領の演説を編集したという指摘だ(トランプも「改ざん」されたと批判している)。

newsweekjp20251118040749.jpg

辞任を発表したデイビー会長 HANNAH MCKAYーREUTERS


トップ2人の辞任はBBCの長い歴史のうち最新で、最も劇的な出来事だ。上層部のアカウンタビリティー(説明責任)を問う動きに見えなくもないが、今回の一件は信頼性低下にさらされるBBCの長年の問題の証しでもある。

懸念すべき状況はデータに表れている。問題はBBCの行動だけでなく、分断化する視聴者が抱くイメージだ。

BBCへの信頼度は、政治的アイデンティティーが大きく左右する。筆者らは22年12月~24年6月、英国内の1万1170人を対象に調査を実施。BBCに対する見方は、支持政党の違いによって著しく異なることが判明した。

調査では、19年の英総選挙での投票先を回答者に尋ねた。その結果、BBC信頼度(7段階評価)が最も高かったのは、リベラル派の自由民主党候補に投票した層で、平均値は4.54だった。

労働党支持層は3.88で、保守党支持層は3.17。注目すべきことに、ブレグジット党(20年に「リフォームUK」に改称)支持層では2.16にとどまった。

右派のリフォームUKは最近の選挙で躍進している。BBCに最も距離を感じている層が、今や政治的に最も台頭しているということだ。

そのせいで、正統性をめぐる深刻な課題が生まれている。BBCが信頼を失っている層こそが、BBCを取り巻く政治的環境を形づくる傾向が強まっているからだ。

対照的なNHKの立場

トップ辞任という形で危機が勃発した一因はそこにある。BBC不信と結び付いた政治潮流はもはや周縁的ではなく、英政治の中心に位置している。

筆者らの調査では日英の比較も行った。イギリスと異なり、日本の公共放送の場合は党派的亀裂は見られない。保守派とリベラル派のNHKへの信頼感はおおむね同程度だ。

日英の差異は政治文化の違いを示している。NHKは今も、組織的な継続性から来る中立性のオーラを帯びているが、BBCはより広範な文化戦争の象徴的な戦場と化している。

イギリスのメディア環境はよりあからさまに敵対的で、今やジャーナリズムの質ではなく党派的アイデンティティーが偏向性の指標だ。

問われているのは、狭義の「偏向」や「公平性」ではない。複数の政治的世界観の中で、正統性を確保できるかだ。

トップ辞任で問題が解消されたと考えてはならない。今回の出来事は、BBCの課題は運営管理にあるだけでなく、政治的かつ文化的なものであることを浮き彫りにしている。

BBCはどんな人が、どんな理由で、どのようにBBCを受け止めているかに向き合う必要がある。さもなければ、BBCを特別な存在にしてきたもの自体を失うことになりかねない。すなわち、大きく分断化した社会で、広く共有される公共放送という役割だ。

The Conversation

Steven David Pickering, Honorary Professor, International Relations, Brunel University of London

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


Reference

Pickering, Steven David, Sunahara, Yosuke, and Hansen, Martin. Examining trust in public service news providers: A comparison of the BBC and NHK. Communications, 2025. DOI: 10.1515/commun-2024-0184


ニューズウィーク日本版 トランプの大誤算
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月14号(4月7日発売)は「トランプの大誤算」特集。国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


地方自治体
人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に安心な水にアクセスできる社会の実現へ
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権、TSA職員9400人超削減を提案 予算15

ワールド

ゼレンスキー氏、エネインフラ巡る停戦案を堅持 ロシ

ビジネス

米国株式市場=上昇、トランプ氏発言と米・イラン協議

ビジネス

NY外為市場=ドル安定的、円相場160円に接近 中
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中