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「最低賃金では暮らせない」...日本企業に広がる「生活賃金」とは?

2025年10月3日(金)12時58分
都内のスカイツリーから

10月3日、最低賃金より高い「生活賃金」の支払いを約束する日本企業が増え始めた。写真は2021年8月、都内のスカイツリーから撮影(2025年 ロイター/Marko Djurica)

最低賃金より高い「生活賃金」の支払いを約束する日本企業が増え始めた。食品をはじめとした物価高が続く中、パートや契約社員など非正規雇用者を中心に家計のやりくりが苦しくなっているためだ。企業側は従業員の待遇改善を訴求して採用力の強化につなげるほか、人権問題を重視するESG投資家からの評価を高める狙いもある。

「従業員が良好な生活の質を維持できるよう、生活賃金を提供することを約束する」。半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、2024年12月期の有価証券報告書で生活賃金について初めて触れ、今期中に日本を含む各国で賃金体系の見直しを実施すると明記した。花王も昨年度の有報で初めて記述し、適正な賃金のあり方について議論を開始した。


 

生活賃金は法的に定められた最低賃金とは異なる概念で、企業が自主的に導入する。国際労働機関(ILO)は昨年、生活賃金を「労働者とその家族が適切な生活水準を保てるために必要な賃金水準」と定義し、最低賃金から生活賃金までの段階的な引き上げを確実に行うべきだと指摘した。

賃金をめぐる議論が活発化しているのは、新型コロナウイルス流行やウクライナ戦争などを背景に、先進国で記録的な物価高が起きたためだ。最賃制度の想定を上回って外部環境が急激に変化し、暮らしに困窮する労働者が増加した。全米トゥルー・コスト・オブ・リビング連合が昨年公表した調査では、米国内の中間所得層の約7割が「経済的に苦しく、改善が期待できない」と回答。約半数は貯金もほとんど出来ていなかった。

日本も同様、実質賃金マイナスの状況が続く中、コメなどの食品高騰が家計を圧迫している。第一生命経済研究所の星野卓也主席エコノミストの試算によると、最低賃金周辺の水準で働く労働者は総労働力人口の約1割にあたる約700万人に達する。連合が24年に算出した都道府県別の生活賃金では、東京都は時給1350円だった。今月3日改定の新たな水準(1226円)でもまだ足りていない計算になる。

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